糖質制限をすることで糖尿病とかの生活習慣病の予防につながることは知っているけど、ガンとか他の病気に効果があるのか知りたい。
今回はこのような悩みに答えていこうと思います。
先に結論を述べてしまうと、糖質制限によって下記のガン発症のリスクを低下させることがわかっています。
- 膵臓ガン
- 子宮体ガン
- 大腸ガン
- 前立腺ガン
- 乳ガン
- 肝臓ガン
- 食道ガン
- 腎臓ガン
- 胆嚢ガン
それでは詳しく説明していきます。
ガンと糖質の関係
ガン細胞はブドウ糖を大量に消費している
ガン細胞は下記3つの特性を持っていることがわかっています。
- 正常な細胞の数倍もブドウ糖を消費する
PET検査はガン細胞のブドウ糖消費が多い特性を利用してガンの早期発見ができるとして注目されています。 - ガン細胞はケトン体や脂肪酸などのエネルギー源を利用できない
ガン細胞のミトコンドリアには酵素に問題があるため、ケトン体や脂肪酸からエネルギーを生産する能力がないことがわかっています。そのため、唯一のエネルギー源としてブドウ糖を利用しています。 - グルット1を獲得している
グルットというのは細胞にブドウ糖を取り込む機能のことを指しています。グルット1というのは筋肉細胞や脂肪細胞などの細胞の中でも特に優先的にブドウ糖を取り込むことができる特性を持っており、脳や赤血球がグルット1を獲得しています。それと同等にガン細胞もグルット1を獲得していることが多いのです。
脳は体重の2%ほどにもかかわらず全エネルギーの25%ほどを消費しているのはグルット1を獲得していることが一つの要因です。
同様に、ガン細胞はグルット1なので、優先的にブドウ糖を取り込むことで大量のブドウ糖を消費しており無限に増殖するということがわかります。
従って糖質制限によって血糖値の上昇を防ぐことでガン細胞へのブドウ糖の吸収を緩やかにすることで進行を遅くできるという事に繋がります。
高血糖はガン発症のリスクが高くなる
国際糖尿病連合(IDF)が発表した「糖尿病治療ガイドライン」の食後血糖値の管理に関する記載によれば、食後の血糖値上昇がガン発症リスクを高めることが示唆されています。
成人男女3万5658人を対象にしたコーホート研究(異なる特性を持つ集団群を時間経過による健康状態の変化を調査して分析する研究)において、以下のことがわかっています。
- 食後の血糖値上昇率と膵臓ガンによる死亡率に強い相関がみられる
- 食後血糖値が200mg/dlを上回っている人の膵臓ガン発症リスクはそうでない人(食後血糖値が121mg/dl未満)と比べて2.15倍
- ガン発症率が高くなる原因は高血糖によって活性酸素が大量に発生して強い酸化ストレスが生じるため。
膵臓ガンに限らず、高血糖によって大腸ガン、肝臓ガン、前立腺ガン、乳ガン、子宮体ガンなども発症率が上がることがわかっています。
高血糖とならないためには
食後高血糖がガンと関係があることから、食後高血糖となる糖質が多い食事を控え、高脂質・高タンパクの食事に切り替えることで、これらのガン発症率を抑えることができます。
血糖値の上昇は米やパンなどの主食をメインとした糖質の摂取によって発生します。また、糖質中心の食生活が続いていると膵臓で生成されるインスリンの抵抗性が徐々に強くなり、高血糖が常態化していきます。
つまり、高血糖とならない手段の一つとして日常の食事から主食の一切を抜くことで摂取する糖質量を大幅に減らして食後高血糖を抑える糖質制限が挙げられます。
糖質制限なので、糖質を多く含む食事は避ける必要がありますが、それ以外の高脂質・高タンパクな食べ物の摂取量は減らす必要はありません。
主食を抜くことでどのようなメリットがあるのかについて、以下の記事で触れているので参考にしていただければと思います。
主食を抜くだけ糖質制限ダイエット 糖質制限をすると健康的に痩せる理由
ガンとインスリンの関係
インスリン値が高いとガン発症のリスクが高くなる
高血糖でガン発症率が変わるのと同様に血液中のインスリン値が高い場合もガン発症率と関係があります。
肥満などによってインスリンの効きが弱くなると、血液中のインスリン量が多くなります。このインスリン値が高い状態が続くと悪性腫瘍の増殖と発ガンの促進がされることがわかっています。
2006年のDiabetes Careに掲載された1万309人の糖尿病患者を対象にした、インスリン値と発ガンの促進作用に関する検証を行った調査では下記のことがわかっています。[1]
- インスリン分泌を促進させない薬(Metformin)を投与したグループに比べてインスリン分泌を促進させる薬(Sulfonylurea)を投与したグループはガン死亡率が約1.5倍(6.3%→9.7%)に高まる。
- インスリン投与しない場合と比較してインスリンを投与するとガン死亡率が約1.5倍(6.8%→9.8%)に高まる。
このことから、投薬や直接インスリンを投与されることで体内を循環しているインスリンの量が増えると、ガン発症による死亡率が高まるということがわかります。
また、厚生労働省からインスリン値が高い男性大腸ガンのリスクが3.5倍にもなることが発表されています。
もちろん、インスリンは人体に欠かせないホルモンであることは間違いないのですが、必要量が少ないに越したことはないということがこの研究から読み取れます。
糖質制限によるガン予防効果
マウス実験から分かった糖質制限によるガン予防効果
ガンに関するジャーナルが掲載されている「Cancer Res」において2011年にマウスを使った糖質制限によるガン予防効果を測定した研究によると下記のことが分かっています。
- 「低糖質・高タンパク」の食事と比較して「高糖質・低タンパク」の食事のマウスの体内においてガンの成長速度が早くなる。
- 「低糖質・高タンパク」の食事のマウスは血糖値・インスリン・乳酸値が低い基準で推移していた。
- 「低糖質・高タンパク」の食事は体重増加だけでなく、ガンの促進をも抑制する効果がある。
ここでの「低糖質・高タンパク」というのは糖質15.6%、タンパク質58.2%の食事を与えた時のものになります。
上記の研究はマウスによる調査なのでそのまま人間に当てはめることはできませんが、人に限らず糖質制限によって一定のガン予防効果があることが分かります。
イヌイットの食生活変化とガンの発症遷移
イヌイットの食生活変化からガン発症をテーマとした興味深い示唆があります。[3]
イヌイットとは、カナダ北部、グリーンランドの氷山地帯で居住しているモンゴル系民族です。20世紀初頭までの彼らの食生活というのは生肉・生魚を中心とした食生活で小麦などの穀物は一切取らない食生活が中心でした。
この頃はイヌイットにはEBウィルス(成人するまでに95%の人はかかる風邪のようなもの)による唾液腺ガンのリスクはありましたが、大腸ガンや乳ガンを含む多くの悪性腫瘍は殆どなかったことがわかっています。
しかしながら1910年代に入ると欧米人との交流が盛んになり、イヌイットの食生活に変化が現れます。そこから30年〜40年ほどが経過した1950年代には、アルコールやパン、タバコなど今まで生活の中に一切なかった文化が浸透していき、肺ガン・大腸ガン・乳ガンといった当時から欧米で発症リスクの高いガンが急激に増えていきました。
このことから以下の2点が言えます。
- 小麦などの穀物を一切取らない低糖質中心の食事では肺ガン・大腸ガン・乳ガンといったガンの発症率は極めて低い
- 糖質中心のライフスタイルへの変化によってこれらのガン発症率が急激に増加した
このイヌイットの歴史的な食生活の遷移からも、糖質摂取がガン発症に強く結びついていることは十分に読み取れそうです。
ガンは糖質制限で予防できる
ガンをもたらす要因というのは糖質に限らず喫煙やアルコール、遺伝や環境によるものなど様々あります。未だ死亡原因の上位にガンが名を挙げていることからも、その問題がいかに根深いかということを表しているかと思います。
しかし様々な調査からも分かる通り、食生活が変わることでガン発症率は大きく変化していきます。食生活は私たちが身近で変えることのできる事です。その一つとして糖質制限が挙げられており、ガン予防という観点ではこの糖質制限は効果的な手段であると考えています。
糖質中心の生活となっている人はこの機会に少しずつ高脂質・高タンパクな食事にシフトしていき、将来の大事な体からガン発症を防ぐ食生活にしてみてください。
参考文献
- Samantha L Bowker , Sumit R Majumdar, Paul Veugelers, Jeffrey A Johnson. "Increased cancer-related mortality for patients with type 2 diabetes who use sulfonylureas or insulin"
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16443869/ - Victor W Ho , Kelvin Leung, Anderson Hsu, Beryl Luk, June Lai, Sung Yuan Shen, Andrew I Minchinton, Dawn Waterhouse, Marcel B Bally, Wendy Lin, Brad H Nelson, Laura M Sly, Gerald Krystal. "A low carbohydrate, high protein diet slows tumor growth and prevents cancer initiation". Cancer Res. 2011 Jul 1;71(13):4484-93
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21673053/ - Jeppe T Friborg , Mads Melbye. "Cancer patterns in Inuit populations". Lancet Oncol. 2008 Sep;9(9):892-900.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18760245/