寿命を延ばすためにはテロメアが重要だって聞いたけど本当なのか。また運動でテロメアを長くすることができるのか知りたい。
今回はこのような悩みに応えていこうと思います。
運動は食事や睡眠と並んで、健康体を維持するために重要な要因の一つです。寿命を左右すると言われているテロメアがどのようなものなのか、運動によってテロメアを長くして寿命を延ばすことができるのかについても深掘りしていきます。運動するモチベーションが湧かない、これからも健康維持のために運動による効果を理解したいという方にとって、一つでも発見があれば幸いです。
テロメアとは
テロメア(Telomere)という言葉を聞いたことがありますでしょうか。テロメアとは私たちの体のDNA染色体の末端(Telos)にある粒子(Meros)のことを指します。そもそもですが、私たちの体は37兆個の細胞でできており、それぞれの細胞の中の「核」と呼ばれる箱の中に23対の染色体が格納されています。この染色体1つずつには2本の鎖で構成されており、この中のDNAが対向の鎖のDNAと結合し、ねじれながら伸びた螺旋構造をしています。
また、DNA情報というのはたった4種類の塩基の組み合わせによって構成されています。
- T:チミン
- A:アデニン
- C:シトシン
- G:グアニン
DNAの遺伝情報というのはこの4種類の並び方次第で規定されています。
テロメアとは私たちの体のDNA染色体の末端(Telos)にある粒子(Meros)のことを指します。テロメアは「TTAGGG」という6つの塩基配列が繰り返し続いている構造体となっています。
塩基:酸と反応して働く化合物
テロメアの役割
テロメアの役割は大きく2つあります。
- 染色体を保護する
染色体の塩基配列が崩れてしまったり、23対の染色体同士で結合してしまうといったことを防ぐ、「キャップ」のような機能。 - 細胞分裂時にDNA情報を正常にコピーする。
細胞分裂する時に末端部部は完全にコピーすることができない。そこで、遺伝情報に直接関与しないテロメアが末端の構造体となっていることで、遺伝情報正しく伝達した細胞(娘細胞)を複製することができる。
テロメアの仕組み
最近の研究ではこのテロメアが人の寿命に関連性があると言われています。それは以下のような仕組みがあるからです。
- 人間の細胞は分裂できる回数に制限がある。(ヘイフリック限界)
- 細胞分裂の過程でDNAが複製されるとき、新生した細胞のDNAの末端は元のDNAよりも短くなる。
- 細胞分裂の過程でテロメアが短くなっていく。
- テロメアがおよそ半分くらいの長さになると細胞分裂上限となる。
- 細胞分裂ができない細胞は老化するだけの老化細胞となり細胞死(アポトーシス)が促進する。
- 老化細胞からは炎症誘発性の物質が漏れ出す可能性もあり、慢性疾患に罹りやすくなる。
上記のような仕組みから、DNAのテロメアがどれだけ残っているのかを見ることで、あとどれだけ細胞分裂ができるのか、健康な状態を維持することができるのか予測することができるため、寿命と大きな関連性があると言われています。
また、テロメアは受精卵の段階で15000塩基とされていますが、徐々に短縮することで、生まれる頃には10000塩基ほどになると言われています。
テロメアを短くしないことが長生きすることのポイント
テロメアの長さが細胞分裂ひいては長寿に繋がるとすれば、テロメアを縮めないように日々の行動を見直すことが重要です。
人間の細胞は分裂できる回数に制限があり、その回数はおよそ50回程度です。しかし、細胞分裂は時にこの回数に届く前に止まってしまうことがあります。つまり、早い段階で老化細胞となることがあり、そうなると若いうちから慢性疾患にかかるリスクがあがってしまうということです。
細胞分裂がヘイフリック限界まで達しない理由が大まかに分けて2つです。
- 細胞を傷つけることでテロメアが短くなるスピードが早まっている。
- 遺伝子によって生まれた時にテロメアの長さやテロメアが短くなるスピードに影響を与える。
後者は先天的なもので生まれた瞬間に決定されるものですが、前者は日頃の行動を見直すことで改善することができます。
細胞が劣化してテロメアが短くなる原因
炎症
炎症とテロメアの短縮には、大きな関係が存在ます。細胞が老化してテロメアが短くなったり、外部起因で損傷すると体内では、炎症性のサインが発せられます。それを検知すると体内の免疫系は自分自信の体を攻撃して体内の組織にダメージを与えてしまいます。このように炎症というのはテロメアを短くする直接的な原因となっています。
炎症がテロメアに与える影響についてマウスを使った実験(Chronic inflammation induces telomere dysfunction and accelerates ageing in mice)では、炎症を抑える機能を損失させた遺伝子をもつマウスを用意して慢性炎症がどのような変化を起こすのかを調べています。結果として、全身の細胞に短くなったテロメアと老化細胞が増加していき、内臓の老化が加速することで、遺伝子操作をしていないマウスに比べて寿命が短くなったことがわかっています。
マウスを使った実験ではありますが、体内の慢性的な炎症は、テロメアを傷つけ、老化が加速する要因となりえるということが言えそうです。
酸化ストレス
テロメアはTTAGGGという塩基配列の反復で構成されており、これが細胞のDNAの末端に繰り返されています。酸化ストレスは体内の抗酸化力が不足することで、この塩基配列にダメージを与える原因になります。
ドイツのフランクフルト大学で行われた研究(Hydrogen peroxide triggers nuclear export of telomerase reverse transcriptase via Src kinase family-dependent phosphorylation of tyrosine 707)では、酸化ストレスはテロメアに損傷を与えるだけでなく、テロメラーゼの活性を減衰させて、テロメアを修復する能力が低下することがわかっています。
酸化ストレスからテロメアやテロメラーゼを守るためには、酸化ストレスの元を断つか、抗酸化物質によって緩和することが有効です。ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質は活性酸素を取り除いてくれるため、テロメアやテロメラーゼが害が及びにくくなります。
また、食事以外にもストレスを緩和させる方法について下記で解説していますので参考にしてみてください。
高血糖
白いパンや砂糖を使ったスイーツ、甘いジュースなど、現代人が口に入れるものは糖質中心となっており、この食生活は慢性的な高血糖を招き、テロメアにダメージを与えることにつながってしまいます。
カルフォルニア大学サンフランシスコ校で行われた研究(Soda and Cell Aging: Associations Between Sugar-Sweetened Beverage Consumption and Leukocyte Telomere Length in Healthy Adults From the National Health and Nutrition Examination Surveys)では、砂糖が大量に使用されたソーダを1日平均600ml飲んでいる人は、テロメアの塩基配列の長さ換算で約 4.6年ほど老化が加速していることがわかっています。
運動不足は4.4年、タバコは4.6年ほど老化が加速するため、ソーダを毎日のように飲んでいる人はタバコを吸っている人と同程度の悪影響をテロメアに与えてしまっているということになります。
運動とテロメアの関係
日々の運動をする人とそうでない人でテロメアの長さに違いは出てくるのかについて、さまざまな研究が行われています。
2015年に発表された、運動習慣とテロメアについての調査(Leisure-Time Screen-Based Sedentary Behavior and Leukocyte Telomere Length: Implications for a New Leisure-Time Screen-Based Sedentary Behavior Mechanism)では、死亡率との相関が高い白血球のテロメアの長さが、じっと座っている時間に対してどのような関係があるのか6405人の被験者をもとに調べています。結果としては体を動かす時間が減り、座りっぱなしの時間が増えるほどテロメアが短くなることがわかっています。
このことから、運動とテロメアの長さには一定の相関があると言えるかと思います。運動によってテロメアを守ることにつながる理由として、下記2点を抑える効果があるためと考えられています。
- 炎症
- 酸化ストレス
それでは、運動が上記を抑える効果がある理由と、具体的にどのような運動をすべきかについて解説していきます。
運動によって酸化ストレスの耐性が向上する
体の細胞というのは、酸化ストレスによってダメージを受けることは広く知られていることかと思います。
酸化ストレスが有毒である一つの原因は、不対電子を持つフリーラジカルが安定分子を持つ細胞から電子を奪うためです。電子を奪われた細胞の分子は不安定としてまた別の安定分子から電子を奪おうとします。この繰り返しによって細胞にダメージを与えるため酸化ストレスが有毒であると言われています。
この酸化ストレスによって細胞がダメージを受けると、テロメアが短くなるだけでなく、心疾患系の病気やがんなどのリスクが上がることになります。
もちろん、私たちの細胞にはこの酸化ストレスを無毒化する抗酸化物質は存在しているため、この物質が十分にあれば、フリーラジカルによる電子の負の連鎖反応を中和して細胞へのダメージを抑えることができます。
理想的には、それぞれの細胞にフリーラジカルを中和するための必要十分な抗酸化物質が含まれていることですが、どうしても食生活やストレス、加齢によってフリーラジカルの産生量も抗酸化物質も変動してしまいます。
そこで重要なのが運動による抗酸化力の強化です。運動は短期的に見るとフリーラジカルが増加します。その理由としては運動中に酸素を多く取り込むことで、細胞でエネルギーが作られ、その副産物としてフリーラジカルが生じるためです。
しかしながら、この運動による短期的なフリーラジカルの産生によって、体内ではこれを中和するためにより多くの抗酸化物質を生産してくれます。
定期的な運動はこの抗酸化物質の生産を高い水準で維持することができるようになるため、酸化ストレス耐性が向上し、ひいてはテロメアを保護することにつながります。
不対電子:通常は分子の中の電子は2つが対をなして存在するところ、その電子が対をなしていない状態の電子のこと
抗酸化物質:電子が奪われても安定分子を維持することができる物質
運動が免疫力を強くして炎症を抑制する
人が加齢や不規則な生活習慣によって病気になりやすくなる背景には、免疫力の低下が一つの原因になっています。免疫力が低下すると、炎症性のサイトカインが体内で循環してしまい、体のあらゆる箇所で炎症が起きてしまうリスクが上がります。
また、免疫細胞が老化することで、体外からの入ってきたウィルスなどの病原菌に対抗する力が弱まってしまい、ワクチン接種による特定ウィルス耐性の獲得も難しくなることがわかっています。
2012年に発表された継続的な運動習慣と免疫システムの関係を調べた研究(Exercise and the aging immune system)によると、定期的な運動は下記のような効果があることがわかっています。
- ワクチン接種による特定ウィルス耐性の強化
- T細胞増殖能力の向上
- 炎症反応の低下
- 炎症性のサイトカインの循環レベル低下
このことから、習慣的な運動は免疫力を強化し、免疫老化によってテロメアがダメージを受けることから防ぐことを示しています。
サイトカイン:体内の炎症や病原菌に反応して、免疫細胞を刺激する調整因子
T細胞:リンパ球の一種で、自ら細胞免疫に関わったり他の免疫細胞に働きかけるといった役割を持つ細胞
テロメア伸長に効果的な運動法
上記の2点から運動は、炎症や免疫低下を防ぐことでテロメアを守る効果があります。
ここでのポイントは、テロメアを守り伸長させるという観点でどのような運動がより効果的なのかということです。
2019年にハイデルバーグ大学で行われてた運動の種類とテロメア伸長の間の関係について行った研究(Differential effects of endurance, interval, and resistance training on telomerase activity and telomere length in a randomized, controlled study)では、被験者を「運動をしない」「有酸素運動」「HITT」「筋肉トレーニング」の4種類にグループ分けした時のテロメア、テロメラーゼの変化を調べています。結果として、顕著な効果が得られたのは「有酸素運動」と「HIIT」で、週に3回のペースで運動することで6ヶ月後の細胞のテロメラーゼ値が2倍になっていることがわかっています。「筋肉トレーニング」ではテロメラーゼ値の大幅な変化はありませんでしたが、運動全般についてテロメアの伸長に有効な影響があると結論付けています。
したがって、有酸素運動もしくはHIITを習慣的に行うことがテロメアを守るという観点で効果的であることがわかります。どちらでも良いので、ぜひ習慣にして取り組むことをおすすめします。
また、HIITのやり方が気になる方は下記を確認してみてください。
HIIT(高強度インターバルトレーニング):全力ダッシュやバーピーなどの高強度の運動と休憩を数十秒単位で繰り返す運動
まとめ
運動以外にもテロメアを延ばすための習慣について記載をしているので興味がある方はチェックしてみてください。
参考文献
- "Hydrogen peroxide triggers nuclear export of telomerase reverse transcriptase via Src kinase family-dependent phosphorylation of tyrosine 707" Judith Haendeler , Jörg Hoffmann, Ralf P Brandes, Andreas M Zeiher, Stefanie Dimmeler
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12808100/#affiliation-1 - "Chronic inflammation induces telomere dysfunction and accelerates ageing in mice" Diana Jurk, Caroline Wilson, João F. Passos, Fiona Oakley, Clara Correia-Melo, Laura Greaves, Gabriele Saretzki, Chris Fox, Conor Lawless, Rhys Anderson, Graeme Hewitt, Sylvia LF Pender, Nicola Fullard, Glyn Nelson, Jelena Mann, Bart van de Sluis, Derek A. Mann & Thomas von Zglinicki
https://www.nature.com/articles/ncomms5172 - "Soda and Cell Aging: Associations Between Sugar-Sweetened Beverage Consumption and Leukocyte Telomere Length in Healthy Adults From the National Health and Nutrition Examination Surveys" Cindy W. Leung, ScD,corresponding author Barbara A. Laraia, PhD, Belinda L. Needham, PhD, David H. Rehkopf, ScD, Nancy E. Adler, PhD, Jue Lin, PhD, Elizabeth H. Blackburn, PhD, and Elissa S. Epel, PhDcorresponding author
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4229419/ - "Leisure-Time Screen-Based Sedentary Behavior and Leukocyte Telomere Length: Implications for a New Leisure-Time Screen-Based Sedentary Behavior Mechanism" Paul D Loprinzi
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25944259/ - "Exercise and the aging immune system" Richard J Simpson , Thomas W Lowder, Guillaume Spielmann, Austin B Bigley, Emily C LaVoy, Hawley Kunz
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22465452/ - "Differential effects of endurance, interval, and resistance training on telomerase activity and telomere length in a randomized, controlled study" Christian M Werner, Anne Hecksteden, Arne Morsch, Joachim Zundler, Melissa Wegmann, Jürgen Kratzsch, Joachim Thiery, Mathias Hohl, Jörg Thomas Bittenbring, Frank Neumann, Michael Böhm, Tim Meyer, and Ulrich Laufs
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30496493/