運動しようと強く心に決めたのに、翌週には運動しなくなってしまう。お菓子を食べないと決意したのに、ずっとお菓子のことばかり考えてしまって結局食べてしまう。こうした方が良いと分かっていてもなかなか続かなくて困っている。新しい行動を習慣化するためにどのような工夫をすれば良いのか知りたい。
今回はこのような悩みに応えていこうと思います。先に結論として、下記7つを工夫をすることが習慣化には効果的と考えています。
- 習慣化に必要な日数を知る
- 不要な習慣をやめる
- 毎日小さな変化を加える
- 考えるより先に行動
- 午前中に取り組む
- スマホを隔離する
- 習慣化する目的を明確にする
私たちは良い行動を身につけて変わろうとした時、SNSや本などから、多くの情報を収集して習慣にしようとします。好きな人がいたら、好きな人に気に入られるための発言がないか調べ、痩せたければ、効果的なダイエット法は何かを調べます。
それらの情報を見ると「そうだったのか!」とその場では納得をするものの、少し時間が立つといつもの生活に戻ってしまう。なんとか今の状態から抜け出そうと情報を見つけて動いてみては、いつの間にかに元の考え方や生活に戻っているといったことを繰り返していないでしょうか。
努力しているけど、ついモチベーションが低い時に挫折してしまったり、やって意味があるのかと自問しているうちに元に戻ってしまうという人も少なくありません。
そこで、行動を習慣にするために私なりに工夫すべきポイントを纏めました。一つでも気づきがあればぜひ今日から取り入れてみてください。
習慣化に必要な日数を知る
新しい行動を習慣化するにはエネルギーを使います。これをずっと続けるのか、いつになったら楽になるのかと考えてしまうと、つい力が緩んでしまって挫折する原因になります。歯磨きや朝シャワー、朝食を摂る、出勤するなど、毎日意識しなくても行動できるようになるためにはどれくらいの日数がかかるのか、ということを知ることはゴールが見えない持久走をする上で一つの目印になります。
2009年にロンドン大学で発表された習慣化の形成に関する調査(How are habits formed: Modelling habit formation in the real worldy)では、平均年齢27歳の被験者約100人に対して、食事や運動についての新しい行動を取り入れてもらい、習慣としての定着の指標であるカチッサー効果が現れるようになった日数を調べています。その行動のハードルの高さによって効果が現れるまでの日数は変動しますが、中央値として66日かかるという結果が出ました。
したがって、何か新しい事を習慣化することで、行動を自動化するために必要な日数というのはおよそ66日であり、これが一つの目印になります。
この行動してから最初の66日間を継続することができれば、あとは意識することなくその行動を取り組むことができるようになる可能性をこの調査から読み取ることができます。
私個人の経験則ではありますが、どのような行動でも「やっても意味ないんじゃないか」という精神的なブレーキが初めのうちは強くかかります。それを乗り越えて1ヶ月ほどその行動を続けていると、精神的なブレーキは小さくなってきて無意識にできるようになってきます。
なかなか新しい習慣を身につけることができずに挫折してしまう人はこの「66日」という数字を意識して、この日数までは根気強く取り組んでみましょう。
カチッサー効果:ある働きによって、人が意識しなくても行動してしまう心理現象
不要な習慣をやめる
新しい習慣を作るために先に取り組むべきことは、不要な習慣をやめて新しい習慣をするための余白を作ることです。
先ほど説明したように、行動が定着するまでの目安が66日であると言われていますが、これは毎日取り組んだ場合の数字です。つまり66日で定着させるためには毎日取り組むことが必要であり、毎日取り組むためには、今までに行っていた習慣をやめる以外ありません。
なぜなら、今までの生活に追加で新しい行動を取り入れるだけでは、時間が足りなかったり、意志力を今まで以上に消費するため継続が難しく挫折しやすくなってしまいます。
したがって、新しい習慣を毎日の生活に取り入れるためには、同じだけの習慣となっているものをやめることが必須になります。
私個人が考えるやめてもよいと考える習慣は下記のようなものです。
- 暴飲暴食
体へのダメージが大きく、血糖値スパイクと消化器官への負担で日中の集中力低下につながります。 - 寝不足
日中の意志力・集中力が低下し、サーカディアンリズムが崩れるので、日中のセロトニン分泌量が低下します。 - SNS全般の利用
主体的な利用以外は、無意識に他人と比較してしまいストレスを溜める原因になります。 - 服を選ぶ時間
毎日同じ服を着ることで組み合わせを考えたり、靴下のペアを探す必要がなくなります。 - 夕食
特に就寝前の夕食は、消化しきれずに腸内環境悪化・肥満の原因になります。 - スマホ依存
おそらく大半の人が悩んでいることなので説明不要かと思います。 - 愚痴を言い合うだけの飲み会
非生産的かつ、その後のストレスレベルを上げるだけで体にも悪く、よいことがありません。
人それぞれ生活スタイル・趣味は異なるので、これが全ての人にとっての正解だとは思っていませんが、一参考にしていただければと思います。
ここで問題なのは、一般的に不要だと思っていても続けてしまっている習慣というのは中毒性があり、依存度が高くなっている可能性があるという点です。そのため、これらの習慣をやめるためには、下記のような工夫が必要になります。
- 環境を整える
家にいると暴飲暴食をしてしまうなら手軽に食べれるスナックや甘い飲み物を置かないようにする。勉強したくてもついスマホを触ってしまうなら、スマホを置いて図書館やカフェに行く・スマホの通知を全て切るなど、断ち切りたい行動を誘発しない環境作りをしてみましょう。意志力では抑えることが出来ない日もあるため、欲が刺激されないように環境をコントロールをすることが重要になります。 - 周囲の人に頼る
人に頼るというと、気後れしてしまう人もいるかもしれません。しかし周囲の人に協力してもらい支援してもらうことで、習慣を断ち切るためのヒントが見つかったり、その人たちを裏切りたくないという使命感が出るため、結果につながりやすくなります。 - 運動で自制心を鍛える
運動と自制心に何が関係あるのかと思う方もいるかもしれませんが、運動は脳機能を強化するという点で非常に有効な手段であることが科学的に証明されています。書籍の「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」でも説明されているように、運動をすることでBDNFと呼ばれる脳のシナプスを強固なものとして、脳機能を強化する因子が分泌されることがわかっています。 - 良質な睡眠で意志力を回復する
どれだけ環境を整えて周囲の人に頼っても、意志力が必要になる場面があります。1日に使うことのできる意志力(ウィルパワー)には限度があるため、睡眠を十分に摂ることで回復する必要があります。まずは睡眠時間と良質な睡眠をとるための環境を整えて、望ましくない習慣を断ち切るための準備をしましょう。
毎日小さな変化を加える
漫画や小説などの創作の世界では、衝撃的な体験を通して、その後の人格や考え方が別人のようになるといった事がよくありますが、現実でそのような体験をすることはそうそうありません。
たとえ極度の筋トレを1日中続けたところで、翌日肥満が解消してボディビルダーのようなゴリゴリの体型になることができないように、人が大きく変化するには毎日の小さな積み重ねが絶対に必要です。日々の習慣自分を変えてくれる唯一の方法なのです。
そんなことは分かっていてもなかなか続けられないという方は、絶対にこれなら取り組むというくらいハードルを下げた状態から始めてみましょう。
筋トレを習慣にするとした時に、いきなり2時間ガッツリトレーニングすると考えるのではなく、まずは家で寝る前に10回だけ腕立てしてみる。次の日は20回だけ腕立てする。それでもきついと感じるようであれば、さらにハードルを下げて、5回だけ腕立てしてみると、自分が確実に実行できるレベルにまで落としてみましょう。
もちろん、どこまでもハードルを落としてしまうと実際に変わることはできないので限度はありますが、慣れてきたら徐々にレベルを上げていけば問題ありません。
繰り返しになりますが、習慣化のために最も重要なのは継続することです。小さくてでも毎日続けることで無意識にその行動を取れるようになっていきます。
考えるより先に行動する
何か新しい事をする際、人は立ち止まる時間が長いほどその事に対してネガティブな印象を持つようになるため、考えずにまずは実行するようにしましょう。
そのために有効なのが「if-thenプランニング」です。これは「もしAになったら、Bをする」と予め起きる可能性があることに対して、どのような行動をするのかを決めておくという方法になります。
例えば、皿洗いを後回しにしてしまう習慣を治したい場合、「使った食器を台所に持っていったら(A)スポンジを掴む(B)」早起きしたい場合「朝に目が覚めたら(A)風呂場のシャワーを出す(B)」といった具合です。
人が挫折する瞬間というのは、「こんなことしても何も変わらない」とネガティブな理由を探してやめてしまうことが大半です。その理由を探すタイミングというのが、行動を起こすまでの時間です。
「if-thenプランニング」は行動を起こすまでの時間を短くすることでネガティブな考えが芽生える時間をなくすことが出来るため、習慣化において効果的であると考えられています。
午前中に取り組む
習慣化したいと考えている事が時間的制約がないのであれば、午前中に取り組むことで継続しやすくなります。
その理由は、人が行動するためには意志力が必要であり、午前中が1日の中でも最も意志力が高い時間帯だからです。
人は一日に35,000回もの意思決定をしていると言われています。布団から出るか、どの服を着るのか、何を食べるのか、誰に投票するのか、このような意思決定をする上で正しい判断をするために意志力を使います。
この意志力は無限に湧いて出てくるものではなく、消費するほど意志力は低下していきます。
そのため、習慣化しようと考えている行動を一日の後半に持ってくると、その時には意志力が低下してしまっており、取り組む力がなくなってしまっています。
この意志力は良質な睡眠を取ることで回復するため、午前中というのは意志力がそれほど消費されておらず、新しい行動を起こすためには最適な時間帯です。
特に、一日の早い時間ほど、仕事や家事などの用事で新しい行動を妨害される危険が少なくなるため、集中する環境も整いやすいためおすすめです。
スマホを隔離する
習慣化しようとしていることにスマホが必要ではないのだとしたら、近くに置かないことをおすすめします。なぜなら、スマホは現代において習慣化において最大の阻害要因になっているからです。
スマホを持っている人が1日にスマホを触る平均回数は2600回を超えると言われてます。起きている時間を16時間とすると、なんと22秒に1回触っている計算になります。このことからも、スマホがいかに行動を阻害して、目の前の集中したい事の妨げになっているかが分かります。
そんな気をすぐ散らす要因のスマホですが、サイレントモードに設定して、すぐ使えないようにバックの中にしまっとけば良いと考えがちです。実際にはスマホを使わなかったとしても、近くに置いておくと人の注意を引きつけてしまう力を持っている事がわかっています。
500人の大学生を集めて記憶力と集中力を対象として行った調査では、スマホを教室の外に置いた学生達と、サイレントモードでポケットにしまった学生達の成績がどのような差が出るのかを調べました。結果として、どちらの学生もテスト中はスマホを触らないようしていましたが、サイレントモードでポケットにしまっていた学生達よりも、教室の外に置いた学生達の方が良い成績が出た、ということがわかっています。
つまり、スマホは近くにあるだけで、集中力が阻害されるということです。これはスマホに手を伸ばして確認出来るという選択肢が頭に残ってしまい、目の前のことに注意が向かないことが原因です。これは空腹の中、甘い匂いのするフレンチトーストを目の前に置かれているのと同じようなものです。
したがって、集中したい時はスマホを別の部屋に置く、すぐ操作できないように電源を切る、家族に預かってもらうなど、すぐに触ることができない距離まで離すようにしましょう。
習慣化する目的を明確にする
あなたがどのようなことが重要だと考えているか、価値観を整理して、習慣化したい行動を結びつけることは習慣化が成功する可能性を上げてくれます。
あなたが何かを習慣化したいと考えているとき、それをする目的についてはっきり述べることができるでしょうか。
なんとなく体に悪いからお菓子をやめよう、そろそろ痩せないと健康に悪そうだから運動しよう、といった曖昧な状態になっていたら、それをもっと明確にすることが重要です。
自分にとってどのようなところにモチベーションを感じるのか、どのような意味を持つのかを深堀して見ましょう。その先に本当にやりたいと思っている根本の理由があります。
価値観が定まっていないという人は「PPA」と呼ばれるフレームワークに基づいて見直ししてみることをおすすめします。
まとめ
参考文献
- "How are habits formed: Modelling habit formation in the real worldy" PHILLIPPA LALLY, CORNELIA H. M. VAN JAARSVELD, HENRY W. W. POTTS AND JANE WARDLE
https://repositorio.ispa.pt/bitstream/10400.12/3364/1/IJSP_998-1009.pdf - アンデシュ・ハンセン (2020)『スマホ脳』新潮社
- "35,000 Decisions: The Great Choices of Strategic Leaders" Joel Hoomans
https://go.roberts.edu/leadingedge/the-great-choices-of-strategic-leaders