難しいことはわからないけど、健康寿命を伸ばすために身近で出来ることを具体的に知りたい。
今回はこのような悩みに応えていこうと思います。
「人生100年時代」と言われるようになってそれなりに時間が経ちました。
リンダ・グラットン氏の『LIFE SHIFT / 100年時代の人生戦略』という本でも書かれているように、医療技術の発達で人の平均寿命というのはここ最近で劇的に伸びており、それに伴ってこれまで正しいと思われていた考え方について見直しをして、人生100年時代に合わせた人生設計をする必要があります。
その上で土台となるのが「いつまで健康上の問題で日常生活が生活できるのか」という健康寿命についてです。
仕事や家族との時間、老後の貯蓄、余暇の時間などはいづれも健康の上に成り立っています。そのため、これらのことを考える前に健康寿命が伸びるのか、短くなっていくのか、その傾向を見ておく必要があります。
2022年に厚生労働省で発表された調査(健康寿命の令和元年値について.)では、日本人の健康寿命は増加傾向にあり、2019年時点の健康寿命は男性は72.68年、女性で75.38年と試算されています。幸いなことに平均寿命より健康寿命の増加の方が大きいため、不健康寿命は短くなっていっています。
この調査は今の平均値なので、今の若い人たちはこれ以上に健康寿命が伸びて、不健康寿命が短くなる可能性があります。
しかしながら、全員がこの統計の線上に乗るわけではなく、人によっては不健康寿命の期間がほぼなく健康体で生涯を全うする人もいれば、そうでない人もいます。
もちろん人によって体質は異なるし、先天的な要因があるのは事実ですが、ある程度までは自分の努力次第で健康寿命を伸ばすことは可能です。
今回はその健康寿命を伸ばすためには具体的にどのようなことをすれば良いのか、私が今までに読んできた健康に関する本300冊と論文を通して見つけた共通点を基に説明していきます。中には当たり前と思っているものもあるかもしれませんが、実際に全て取り組めている人は多くないかと思いますので、今日から一つでも生活に取り入れたいと思えるものがあれば幸いです。
白米、パン、お菓子、甘い飲み物は一切摂らない(重要度:★★★)
健康寿命を伸ばす具体的な方法一つ目は、白米、パン、お菓子、甘い飲み物は一切摂らないことです。
健康寿命を短くする原因は体の老化であり、白米、パン、お菓子、甘い飲み物は老化を加速させてしまいます。
その理由は、これらの食べ物が糖化を起こしやすいからです。糖化はフルクトースやグルコースなどの余った糖がタンパク質と結合してAGEsと呼ばれる細胞を老化させる原因となる物質を生成します。
他にも糖質を過剰に摂取するとインスリン抵抗性が強くなることで、血糖値が下がりづらくなり、第二型糖尿病を発症するリスクもあります。
つまり、白米、パン、お菓子、甘い飲み物など糖質を多く含んでいる食べ物を過剰に摂取するとその分だけ体内では余剰の糖が発生して糖化が起きるため、老化が進行するということです。
とはいえ、金輪際甘いものは食べるなというのは酷です。そのような甘いものは、誰かの誕生日や友達と会った時、旅行中など特別な時に限定しましょう。私もそのような時はリミッターを外して大量の甘いものを食べること、あります。
日常生活においては、筋トレやスポーツ、肉体労働をしている人など、糖質をしっかり摂る理由がある人以外は、抑えることをおすすめします。具体的には脳の消費エネルギーが1日400kcal前後であることを考慮して、1日の糖質摂取量は100~150(g)が目安です。
また、上記の摂取量に抑えるための方法として次のようなものがあります。
アクションプラン
玄米、全粒粉パンを食べる
元々白米や通常のパンを習慣的に食べている人が急に止めるのは難しいです。そこでおすすめしたいのが、玄米や全粒粉のパンを代わりに食べることです。
これらの特徴は白米や通常のパンに比べて低GI値が低い点にあります。
「GI」というのは「グリセミック・インデックス」の略で、食品に含まれる糖質が血糖値をどれだけ上げるのかを、グルコースを「100」として相対的に数値化した指標になります。このGI値は100に近いほど、血糖値の上昇が急激になり、GI値が100よりも低いほど、血糖値の上昇は緩やかになります。
同じ糖質量だとしても、低GI値食品の方が消化・吸収に掛かる時間が長いため、空腹感を感じにくく、食べ過ぎ防止につながります。
完全に主食を断ち切る前に、まずは低GI食品に変えるところから始めてみましょう。低GI食品についは下記で確認してみてください。
毎日野菜を350g食べる(重要度:★★☆)
健康寿命を伸ばす具体的な方法二つ目は、毎日野菜を350g食べることです。
誰もが一度は耳にしたことがある基準値かと思いますが、実際に毎日350g食べれていますか?
一度昨日の食事を思い返してみてください。その食事にどれくらいの野菜が含まれていましたか。朝は菓子パンを食べ、昼は会社近くでパスタを食べ、夜は会社の同僚と居酒屋に行って塩辛いものを食べていたりしないでしょうか。
残念なことに、現代人の食生活はどの年代でも野菜の摂取量が不足しています。厚生労働省による国民の健康に関する調査である『令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要』より、令和元年時点での野菜摂取量の平均は280.5gであり、基準値である350gを下回っていることがわかっています。また年々野菜摂取量は減っており、この傾向は大きくなっています。
この350gというのは生の状態での350gです。葉物野菜だけで350g取ろうとすると、パーティで出すのかというサイズのサラダを食べる必要がありますが、それ以外の野菜を組み合わせれば意外と簡単に350gは食べれます。
例えば、トマト1個あたり約150gあります。水洗いして丸齧りすれば1食分の野菜をまかなうことができます。もちろん栄養バランス的には良くないですが、「思ったより大変ではない」と感じたのではないでしょうか。
野菜の中でもおすすめはキャベツ、ケール、ブロッコリー、ブロッコリースプラウト、トマト、ニンジンなどのポリフェノールやカロテン、ビタミン類の化学物質を豊富に含んでいる野菜です。
ポリフェノールは植物が光合成を行う際に生成される物質で、苦味や色素などの成分の一つになっています。一言でポリフェノールと言ってもその種類は数千種類もあり、化学構造の違いから効果も異なってきます。
カロテンは動植物に広く存在する黄、橙、赤色の色素で脂溶性の物質で別名プロビタミンAと呼ばれ、体内で必要に応じてビタミンAに合成されるため、ビタミンAの仲間に分類されます。
これらの物質は以下のような効果があります。
- 抗炎症作用
- 抗酸化作用
- 血管内細胞の保護
- 末端血管の拡張
- 血流改善
- 認知症予防
ポリフェノールやカロテノイド、ビタミンの種類によってはこれ以外にもさまざまな健康効果が見込まれるため、健康寿命を伸ばすのためには毎日しっかり摂取することをおすすめします。
とはいえ、毎日生野菜を350g摂るのはかなり大変なので、以下のような工夫をしてみましょう。
アクションプラン
炒め物にする
炒めることで野菜の水分が蒸発するためカサを減らすことができます。ただ、熱に弱いビタミンが消失するというデメリットはあります。
スープや鍋にする
味噌汁やスープカレー、鍋に野菜を入れればカサを減らしつつ、水溶性ビタミンを消失することなく摂取することができます。
スムージーにする
ミキサーを持っているという方は、粗く切ってミキサーに入れてスムージーにするのも有効です。
16時間の食事制限を行う(重要度:★★☆)
健康寿命を伸ばす具体的な方法三つ目は、16時間の食事制限を行うことです。
食事制限というのは主に以下の2つがあります。
- 断食する(頻度を減らす)
- カロリー制限をする(量を減らす)
断食というと出家した僧侶が行っている精神的な修行のようなものと思われる方もいるかもしれませんが、飽食の現代において断食は生涯にわたって健康寿命を伸ばす有効な手段になります。
食事制限の効果に関する研究は長年行われており、古いもので1917年にトーマス・オズボーン氏が発表した研究(THE EFFECT OF RETARDATION OF GROWTH UPON THE BREEDING PERIOD AND DURATION OF LIFE OF RATS)があります。この研究では、幼児期に食料を制限されたメスのラットと、十分に食料を与え続けて育ったメスのラットのどちらが長生きするかを調査しています。結果としては、食料を制限されたラットの方が遥かに長い期間生きたことがわかっています。
もちろんこれは母体が非常に小さいため、信憑性が高いわけではありません。ただこの研究を火種に後100年以上にわたって、食事制限が寿命にどのように影響を与えるのか調査する研究が行われるようになっています。
長年にわたってそれら多くの動物実験が行われてきた結果として一つの結論に辿り着いています。それは、栄養失調に陥らない程度の長期的な食事制限は健康寿命を延ばし老化を予防する可能性が非常に高いということです。
残念ながら、人間における長期的な食事制限に関する研究は倫理的に問題となったり、被験者の食事量を完璧にコントロールできないなどの理由から多くないため、上記の結論は、人間を対象とした研究結果に合わせて動物実験の結果を含めたトータルでの結論です。
したがって、断食およびカロリー制限などの食事制限をすることが健康寿命を伸ばすには有効であるということです。
とはいえ、一日3食しっかり食べている人が急に断食しようとするのは負荷が大きく挫折する可能性が高いため、まずは下記のことから始めてみることをおすすめします。
アクションプラン
16時間のプチ断食をする
何日も断食するのが大変だと思う方におすすめなのがプチ断食です。通常の断食が数日単位で食事を制限するのに対してプチ断食は16時間を目安に食事の量を制限します。
食事制限を16時間以上を継続すると体内で「オートファジー」という古くなった細胞を内側から新しく作り変える仕組みが働きます。これによって内側から体を蘇らせることができるためこの観点からも軽い断食はおすすめです。
どの時間帯で断食を行うかは自分のライフスタイルに合わせて調整するのが良いかと思いますが、個人的に取り組みやすいと思っているのが「夜抜き型」です。「夜抜き+睡眠」で16時間の断食をするため、昼ごはんを多めに食べて夜ごはんを抜けばそこまで空腹を我慢することなく断食することができる方法なのでぜひ試してみてください。
朝食は抜きたい方や夜にしっかり食べたいという方もいるかと思います。他の断食パターンについては下記で紹介しています。
HIITを8分間行う(重要度:★★★)
健康寿命を伸ばす具体的な方法四つ目は、HIITを8分間行うことです。
みなさん運動はしていますでしょうか。厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」によると、運動習慣のある人(1週間に30分の運動を2回以上1年間継続している人)の割合は、男性が33.4%、女性が25.1%となっており40代までは運動の習慣が減少する一方で、健康を意識し始める50代以降では急激に増加しています。
また、細胞分裂の回数券と呼ばれるテロメアと運動には強い関連性があります。
2015年に発表された、運動習慣とテロメアについての調査(Leisure-Time Screen-Based Sedentary Behavior and Leukocyte Telomere Length: Implications for a New Leisure-Time Screen-Based Sedentary Behavior Mechanism)では、死亡率との相関が高い白血球のテロメアの長さが、じっと座っている時間に対してどのような関係があるのか6405人の被験者をもとに調べています。結果としては体を動かす時間が減り、座りっぱなしの時間が増えるほどテロメアが短くなることがわかっています。
つまり、運動習慣がない人はテロメアが短く、細胞分裂によって新しい細胞を作る能力が低くなってしまうということです。
テロメアに限らず、運動は健康に良いと言われますが、他には下記のような効果があります。
- 肥満を防ぐ
- 免疫力を高める
- ストレス耐性を高める
- 免疫力を向上させる
- 抗うつ作用がある
- 脳を成長させる
しかし、効果があることはわかっていてもジムに行ったり、外をランニングするというのはハードルが高い方もいるかもしれません。そのような方には下記の方法がおすすめです。
アクションプラン
HIITを毎日8分間行う
HIITというのはバーピーやダッシュなどの高強度の運動と短い休憩を高頻度で繰り返し行う運動法です。これであれば1回8分程度で上のような健康効果が十分に得られる非常に有効な方法です。
2019年にハイデルバーグ大学で行われてた運動の種類とテロメア伸長の間の関係について行った研究(Differential effects of endurance, interval, and resistance training on telomerase activity and telomere length in a randomized, controlled study)では、被験者を「運動をしない」「有酸素運動」「HITT」「筋肉トレーニング」の4種類にグループ分けした時のテロメア、テロメラーゼの変化を調べています。結果として、顕著な効果が得られたのは「有酸素運動」と「HIIT」で、週に3回のペースで運動することで6ヶ月後の細胞のテロメラーゼ値が2倍になっていることがわかっています。「筋肉トレーニング」ではテロメラーゼ値の大幅な変化はありませんでしたが、運動全般についてテロメアの伸長に有効な影響があると結論付けています。
したがって、有酸素運動もしくはHIITを習慣的に行うことがテロメアを守るという観点で効果的であることがわかります。有酸素運動は準備も含めて時間がかかるので、短時間で効果を得たい人にはHIITがおすすめです。
また、HIITのやり方については下記で紹介しています。
HIITの特徴として短時間で高強度の運動をするため、数分ではありますが、最大心拍数の80%程度の負荷を掛けます。なので、かなりきついと感じる人もいるかもしれません。
2014年にアイオワ州立大学で行われた調査(Leisure-Time Running Reduces All-Cause and Cardiovascular Mortality Risk)では1日15分程度のジョギングをすることで、心臓発作による死亡リスクが45%減り、全死因死亡率が平均30%も低下していることを示唆しています。
運動であれば、軽いジョギングを10分程度するだけでも健康寿命を伸ばすことにつながります。毎日数分を運動に当てるだけでその後の健康寿命が何年も変わる可能性があるので、優先的に生活に取り入れることをおすすめします。
お風呂に15分浸かる(重要度:★☆☆)
健康寿命を伸ばす具体的な方法五つ目は、お風呂に15分浸かることです。
みなさんは毎日湯船に浸かっていますでしょうか。特に夏なんかは暑いのでシャワーだけで済ませてしまう人も多いのではないかと思います。
私たちの体内にある酵素は生命活動を維持する上で、必要不可欠な存在ですが、大きな温度変化に耐えられるようにできていません。そのため、長時間高温もしくは低温の環境に居続けるというのは、体にとってはリスクとなるのですが、一時的にそのような環境下に体を晒すのは様々なメリットがあります。
身近なところだと入浴が挙げられます。具体的には以下の条件で入浴をすると効果的です。
アクションプラン
40〜41度のお湯に15分浸かる
深部温度を温めるためには、何も熱湯に我慢して入る必要はありません。夏場は40度、冬場は42度の湯船に10分〜15分浸かることで、体内でHSPが生成され、タンパク質の新生が起きます。
HSP(Heat Shock Protein)とは外部から強い熱ストレスが掛かった際に細胞を保護するためのタンパク質のことで、このタンパク質は紫外線や活性酸素などによってダメージを受けた細胞を修復するはたきを持っています。
また、入浴は睡眠の質をブーストしてくれます。深部温度が入浴で上昇するとホメオスタシスにより、入浴後に反動で深部温度が下がり始めます。それによって表皮温度と深部温度の温度差が小さくなり、睡眠の質を向上させることにもつながります。
ただし、15分以上入ると熱中症のリスクが上がったり交感神経が刺激されるため、入りすぎは逆効果です。注意しましょう。
ホメオスタシス:生体の 内部や外部の環境因子の変化に関わ らず生理機能が一定に保たれる性質
サウナに行く(重要度:★☆☆)
健康寿命を伸ばす具体的な方法六つ目は、サウナに行くことです。
サウナと聞くとビール腹のおじさんが娯楽で楽しんでいるイメージがあるかもしれませんが、最近では「サ道」の影響もあって若者もサウナに行く人が増えています。
入浴と同様に、サウナは短時間で体を高温および低温の環境に晒すことになります。入浴よりもより温度差の大きい環境の場合、健康にどのような影響を与えるのでしょうか。
サウナ大国であるフィンランドを例に紹介します。
2015年にフィンランドで行われた研究(Association between sauna bathing and fatal cardiovascular and all-cause mortality events)では、フィンランド東部に住む男性2315人を対象として約20年にわたって追跡調査をしています。結果として、被験者のうちサウナを頻繁に利用する人(週に数回)利用する人は週1回の人よりも、心疾患の発症率や全死因死亡のリスクがおよそ半分になっていたことがわかっています。
大半のフィンランド人男性は週1回以上のサウナが習慣になっています。そのため、どちらもサウナを習慣としている被験者が対象ではありますが、サウナを通して、短時間で体を高温および低温の環境に晒す頻度が多くなるほど死亡リスクが減少するということがわかります。
最近は都内を中心として、サウナ施設が急増しているので、近くのサウナ施設を探して定期的に行ってみましょう。
アクションプラン
近くのサウナ施設を探して行く
サウナを習慣にするためには、自分の住んでいる街のサウナ施設を探して行くことです。サウナの入り方が分からない方は、まずはの以下の入り方を試してみましょう。
- サウナ室
高温多湿のフィンランド式サウナがおすすめ。姿勢を正してゆっくり呼吸をする。
※滞在時間の目安は10分前後 - 水風呂
心臓に負荷を掛けないよう息を吐きながらゆっくり入る。「羽衣」が取れないようにじっとして入る。末端神経は過冷却となるので、足と手は水風呂から出すと冷感が緩和されます。
※滞在時間の目安は1分弱 - 外気浴
最初の5分を意識して、できるだけ横になってくつろげる場所で目を閉じて深呼吸をする。
※滞在時間の目安は5〜10分(時期による)
サウナのととのえ方は体調や人によって違うため、慣れてきたら上記を元に自分にとって最も「ととのう」と思える基準を見つけるようにしましょう。
また、他の健康効果についても気になる方は下記を確認してみてください。
7時間の睡眠をとる(重要度:★★★)
健康寿命を伸ばす具体的な方法五つ目は、7時間の睡眠をとることです。
1日に取るべき睡眠時間は人によって異なりますが、一般的に7時間を目安に睡眠が取れているとテロメアが長い状態で維持でき、健康寿命を伸ばすことがわかっています。
2014年に行われたテロメアと睡眠時間の相関を調べた研究(Telomere Length is Associated with Sleep Duration But Not Sleep Quality in Adults with Human Immunodeficiency Virus)では、7時間以上の睡眠をとっているグループは7時間未満のグループよりもテロメアが長いことがわかっています。特に女性と高齢者にはその傾向が強く出ており、睡眠時間の確保がテロメアを維持するための要素であることがわかっています。
睡眠不足が健康に良くないことはなんとなく想像つきますが、とはいえ、寝過ぎも健康にはよくありません。
カリフォルニア大学のDaniel Kripke氏が実施した100万人規模の追跡調査(Mortality associated with sleep duration and insomnia)によると、病気で亡くなった人が最も少なかったのは睡眠時間が7時間の人たちでした。最も死亡率が高かったのは睡眠時間が短いグループ(3時間未満)ではなく、なんと睡眠時間が長いグループ(10時間以上)で、死亡率は約1.3倍ほど増加することがわかっています。
睡眠時間が短かったり、長すぎる人というのはそもそも生活習慣が乱れている可能性もあるため、睡眠時間だけでこれほどの差が出るとは考えづらいですが、少なくとも日々の不調に繋がっていることは間違いないようです。
世の中にはショートスリーパーと呼ばれる睡眠時間が6時間未満でも、疲労残りや集中力の低下などの症状がなく健康への影響が無い人が全体人口の5%ほど存在します。逆に9時間は寝ないと日中眠くなってしまうというロングスリーパーも一定数いますが、大半はミドルスリーパーなので、自分がどれくらいの睡眠時間が必要か把握している人以外は7時間を目安に睡眠時間を確保するのが良いでしょう。
7時間の睡眠をとるためには、入眠のための準備が重要になります。具体的には以下のような事を取り組んでみましょう。
アクションプラン
入眠の準備をする
良質かつ7時間の睡眠時間を確保するためには、以下のようなことを生活に取り入れることが有効です。
- 朝日を浴びる
朝日を浴びると左脳と右脳の間にある松果体から分泌されるメラトニンが抑制されます。
メラトニンは睡眠ホルモンで分泌されると自然な睡眠を誘う作用があります。これが朝日によって抑制されると15時間後にまた分泌がされるようになります。
したがって、ゴールデンタイムの22時には入眠するためには朝の7時には朝日を浴びて抑制すれば良いということになります。 - 朝食はトリプトファンを多く含む食材を食べる
睡眠ホルモンであるメラトニン分泌には、セロトニンが原料となっており、さらにセロトニンの分泌にはトリプトファンの摂取が必要になるます。このトリプトファン→セロトニン→メラトニンの合成の流れはおよそ15時間ほどかけて合成されます。したがって、夜22時に寝ている人というのはその15時間前の朝7時ごろにトリプトファンを摂取することで、寝るタイミングでメラトニンの分泌を促すため良質な睡眠につながりやすくなります。 - 夕方以降はカフェインを避ける
カフェイン自体には様々な健康効果がありますが、良質な睡眠をとるためには夕方以降の摂取はおすすめしません。カフェインの体内半減期(効果が半分になる時間)は体質によって大きく異なりますが、摂取からおよそ4時間かかります。このことを意識して、夕方以降はカフェインが含まれる食べ物・飲み物の摂取は控えるようにしましょう。 - 寝る1時間〜2時間前に入浴する
睡眠中の深部体温を意図的に下げて入眠しやすくする方法の一つがお風呂に入ることです。体温を下げるために温める矛盾に疑問を持つかもしれませんが、これは人間のホメオスタシスを利用した方法です。入浴直後は湯冷めするとよく言いますが、お風呂に入って体温が急激に上がると、このホメオスタシスが機能して体温を下げようとします。これにより睡眠中の深部体温がより下がりやすくなり、睡眠の質向上につながります。もちろん、サウナでも同様の効果を得ることができます。 - 好きな香りを嗅ぐ
香りの中でも、特に睡眠の質を上げる香りとしてラベンダーの香りがあります。ラベンダーの香りを嗅ぐと副交感神経が刺激され、体温、血圧ともに緩やかに低下して、誘眠効果の高いα波が増加したとの研究結果も報告されています。その他には、ヒノキやスギなどに含まれているセロドールと呼ばれる香りは交感神経の興奮を鎮めてくれる効果があることもわかっています。 - 寝る1時間前はデジタルデバイスを使用しない
デジタルデバイスというのは、具体的にテレビ、スマホ、パソコン、タブレット類です。これらの機器から発せられる光は交感神経を刺激しメラトニンの分泌を妨げる上に副交感神経の働きを阻害してしまいます。
スマホは特に注意が必要で、SNSの使用は強いストレスを受ける可能性があり、それによって交感神経が大きく刺激されてしまいます。
肺に入れる空気をきれいにする(重要度:★★☆)
健康寿命を伸ばす具体的な方法五八つ目は、肺に入れる空気をきれいにすることです。
食事・運動・睡眠が重要なのは誰もが分かっていることかと思いますが、今吸っている空気を気にしている人はそこまで多くないのではないでしょうか。
例えば、健康に悪いの化学物質の代表の一つがタバコです。
タバコが健康寿命を短くするというのはなんとなく想像できることかもしれません。タバコの煙には何千種類もの有害物質、数十種類もの発がん性物質が含まれており、これらの物質が活性酸素を発生させ細胞を傷つけてしまいます。
ロンドンのセントトーマス病院が女性1122人を対象に行った調査によると、たばこを毎日20本、10年間吸い続けると約5歳分のテロメアが短くなっていることが分かっています。喫煙者はそうでない人よりも老けて見えてしまうのはこのテロメア短縮による細胞の老化が原因です。
また、タバコは吸っている人だけでなく周囲の人への健康被害もどうしても出てしまいます。タバコの煙に含まれている芳香族アミンは、細胞のDNAを傷つける作用がありますが、これは主流煙よりも副流煙の方が約50倍多く含まれていることが分かっています。
他には、一酸化炭素は無味無臭で毒性が強いと言われていますが、火災や炭坑などの近くでは大量に発生しています。この一酸化炭素は空気中のたった0.02%の濃度になっただけで、頭痛や吐き気などの症状が出始めると言われています。それくらい大気中に含まれている物質というのは、たとえ微量だとしても体に大きな影響を与えているのです。
2013年にノースウェスタン大学で行われた農薬の累積曝露量とテロメアの長さを調べた研究(Lifetime pesticide use and telomere shortening among male pesticide applicators in the Agricultural Health Study)によると、除草剤や殺虫剤などで使われている7種類の農薬について、これらの農薬への累積曝露量の多い農業就労者ほどテロメアが短くなる傾向にあることが分かっています。
したがって、これらの有毒な化学物質を取り込まないために有効なのは下記のようなことです。
アクションプラン
空気清浄機を設置する
室内であれば、空気清浄機を設置して空気中の微粒子や花粉、ホコリなどを取り除き、肺に入れる空気をきれいにすることがおすすめです。実際に効果があるのか、目に見えにくいですが、実際に使った後のフィルターの汚れを見れば、どれだけ濁った空気を吸っていたのかが実感できます。また、空気中に舞った埃も吸ってくれるので、床にがホコリが溜まりづらくなる、といったメリットもあります。
工場、炭鉱、喫煙所周辺は避ける
大気中の空気を自分の力だけできれいにするというのには限界があります。工場や炭鉱が発生させる有害物質が有害だから営業停止しろ、というのはもちろん出来ないのでそのような有害な物質の多い場所を避けることが重要です。空気質の指標としてAQI(Air Quality Index)があります、他国と比べて日本はAQIが非常に良好ではありますが、工業地帯など特定の地域はAQIが悪いため、チェックするようにしましょう。最近ではiphoneでも確認できるようになっています。
毎朝5分間瞑想する(重要度:★★★)
健康寿命を伸ばす具体的な方法九つ目は、毎朝5分間瞑想することです。
休日にゆっくりくつろいでいると、この生活で良いのか、この先大丈夫か、と不安や悩みが襲ってきたという経験がある方もいるかもしれません。これらは意識が未来に向いており、今この瞬間に関心が向いていない状態というのは、健康寿命にも悪影響を及ぼすことがわかっています。
健康でストレスレベルが低い女性250人を対象とした調査(Wandering Minds and Aging Cells)では、今この瞬間に集中している頻度とテロメアの長さに相関関係があるのかを調査しています。結果として、今この瞬間に集中していない回数が多いグループはそうでないグループと比較して200塩基ほどテロメアが短い事がわかっています。つまり、今この瞬間に注意が向いていないほど細胞の寿命が短くなる傾向にあるという事です。
では、今この瞬間に注意を向けるためにはどうしたら良いのでしょうか。自分の注意が今この瞬間に向いている状態をビーイング・モード、過去や未来に意識が向いており自分が行なっている事に注意が向いていない状態をドゥーイング・モードと呼びます。前者のビーイング・モードになるためには、瞑想を習慣にすることが特に有効です。具体的な瞑想法は下記の通りです。
アクションプラン
マインドフルネス瞑想を毎朝5分行う
- 基本姿勢をとる
椅子に座ったら背筋を伸ばす(骨盤から首筋まで背骨がまっすぐになっている感覚)
腹筋は力を入れず、手は太ももの上に置く
意識に集中するために、目を閉じる - 意識を体の感覚に向ける
手が足に触れている感覚、お尻が椅子に触れている感覚、体が触れている感覚に意識を向ける
体が重力で下に引っ張られる感覚に意識を向ける - 呼吸に注意を向ける
鼻呼吸をする時に、鼻を通る空気、空気が出入りして上下する胸・お腹の感覚を意識する
無理に深呼吸はしなくてOK
もし雑念が浮かんできたら、雑念が浮かんできたことに「気づき」、注意を呼吸に意識的に戻す - 毎日続ける
まずは1日5分から始めて慣れてきたら10分、15分と伸ばしていく
習慣化するためにも、できれば毎日同じ場所、同じ時間に行うのがおすすめ
他にも複数の瞑想法があるので気になる方は下記をチェックしてみてください。
まとめ
参考文献
- "LIFE SHIFT / 100年時代の人生戦略" アンドリュー・スコット ,リンダ・グラットン
- "健康寿命の令和元年値について." 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf - "Soda and Cell Aging: Associations Between Sugar-Sweetened Beverage Consumption and Leukocyte Telomere Length in Healthy Adults From the National Health and Nutrition Examination Surveys" Cindy W. Leung, ScD,corresponding author Barbara A. Laraia, PhD, Belinda L. Needham, PhD, David H. Rehkopf, ScD, Nancy E. Adler, PhD, Jue Lin, PhD, Elizabeth H. Blackburn, PhD, and Elissa S. Epel, PhDcorresponding author
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25944259/ - "Differential effects of endurance, interval, and resistance training on telomerase activity and telomere length in a randomized, controlled study" Christian M Werner, Anne Hecksteden, Arne Morsch, Joachim Zundler, Melissa Wegmann, Jürgen Kratzsch, Joachim Thiery, Mathias Hohl, Jörg Thomas Bittenbring, Frank Neumann, Michael Böhm, Tim Meyer, and Ulrich Laufs
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