今回は「オーガニック」について取り扱っていこうと思います。

自然食品専門店や、ファーズマーケット以外でもスーパーやデパートでオーガニックを謳った野菜やコスメが売られるようになってきました。

実際にオーガニックは体に良いのか。オーガニックと健康の関係ついて論文をベースとして解説していこうと思います。

オーガニックとは

オーガニッとは以下の3点の特徴を持っています。

  1. 化学肥料や指定以外の農薬を使用していない(もしくは制限している)
  2. 遺伝子組み換え技術を使わない方法で栽培を行う
  3. 太陽・水・土地・微生物など自然の恵みを生かしている

これらの特徴を持ったオーガニックの推進は各国で行われています。

例えば、日本では農林水産省が「有機JASマーク」として、JASに適合した生産が行われていることを登録認証機関が検査して認証をおこなっています。

有機JASマークは、太陽と雲と植物をイメージしたマークです。農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないことを基本として自然界の力で生産された食品を表しており、農産物、加工食品、飼料、畜産物及び藻類に付けられています。

農林水産省. 『有機食品の検査認証制度』より1

上記の通り農産物、加工食品、飼料、畜産物及び藻類について、認証するためのいくつかの基準を満たすと有機JASとして認証されます。

海外でも「コスモス認証」や「GOTS認証」など分野に特化した認証機関が認証を行なっています。

これらの機関で認証を受けることで、商品に対して「有機」や「オーガニック」といった表記をすることができるようになります。

農林水産省の有機食品市場調査によると、世界の有機食品売上は増加し続けており、2001年に約210億ドルだった売上は2020年では約1,290億ドルと20年で約6倍成長をしています。2

オーガニック市場は国内だけでなく世界的なトレンドの一つであることがわかります。

オーガニックの目的

オーガニックによって下記のような課題を解消することを目的としています。

  1. 環境汚染
  2. 持続可能な食料生産
  3. エシカルなライフスタイル実現
  4. 体に配慮した食糧生産

環境汚染

一部の化学肥料を使った農業は環境汚染につながる可能性が示唆されています。

例えば、窒素肥料の過剰利用は地中の窒素濃度が高くなり、土壌中で微生物に分解されて亜酸化窒素が発生します。

この亜酸化窒素は二酸化炭素と比較しても約300倍もの温室効果をもたらすといわれ、環境への影響を危惧されています。

他にも、化学肥料を使用しないことで水汚染や土壌汚染、大気汚染などから環境を守ることにつながります。

持続可能な食料生産

化学肥料の主な原料である尿素、リン酸アンモニウム、塩化カリウムの生成には化石燃料が必要であり、日本のような化石燃料が採れない国は、肥料調達の大半を輸入に頼らざるを得ない状況です。

一方で、有機肥料である堆肥を使うことで肥料を自給することができます。

堆肥とは稲わらや落ち葉、家畜ふん尿、食品残渣などの有機物を、微生物の力を使って分解させ、成分的に安定化するまで腐熟させたものです。

必要な量を自給できるかはおいておくとし、このような自然肥料を使うことで国内で持続可能な食糧生産が可能となります。

エシカルなライフスタイル実現

エシカル(倫理的)とは「人や社会、地球環境に配慮した倫理的に正しい消費行動」を指します。

オーガニックはこのような倫理観を持つ人の価値観を尊重し、そのライフスタイルを実現することに繋がります。

体に配慮した食糧生産

使用する肥料や農薬を制限することで人体への影響を最小限にすることを目的とします。

例えば、ポストハーベスト問題のような野菜を収穫した後に、害虫駆除や防腐の目的で掛けられた農薬を野菜と併せて体に取り込んでしまうといった問題があります。

微量の残留農薬が積み重なることが体に悪影響を与えるのではないかということが問題視されています。

この点については下記で詳細を説明します。

オーガニックと健康の関係

実際にオーガニックが健康にどのような影響を与えているのかについて考えてみます。

結論としては「オーガニックが体に良い影響を与えるのか白黒はっきりしていない」ということになります。

これには下記の理由があります。

  1. 食品研究において特定の食品の長期的な影響を調べることが困難だから
    世間的には「オーガニック=健康に良い」と考えている人が一定数いるため、オーガニック食品に関心がある人は、それ以外の健康的な生活をしていることが考えられます。そのため、そのような人が健康寿命が長かったとしてもオーガニック食品による影響なのか、他の健康的な生活による影響なのかを判断するのは非常にハードルが高くなります。
  2. オーガニック食品が使わない肥料や農薬の悪影響について長期的な影響を調べることが困難だから
    認証されていない農薬や肥料が悪影響をもたらすことを示せば良いのですが、これも同様に一つの物質について長期的な影響を調べることは無理があります。また、慢性的な害を与えるかの臨床試験は倫理的にも困難であり、科学的根拠の比較的弱い動物実験によって判断するしかないという状況です。

このような理由からオーガニックが体に良い影響を与えるのかははっきりしていません。

しかし、年々需要が高まりつつあるオーガニック業界において、健康に関する研究がされていないわけではありません。

オーガニックが体に良い影響があるのかを考える上で重要な観点は下記の3つです。

  1. 残留農薬による健康被害があるか
  2. 衛生面での問題はあるか
  3. 栄養価の違いがあるか

残留農薬による健康被害があるか

2012年にスタンフォード大学で行われたシステマティックレビューでは、オーガニック食品を食べた子供の尿中残留農薬や重金属が有意に低かったと報告しています。3

一方で、この残留農薬が長期的に見て健康にどのような影響を与えるのかについては明確な結論が出ていないのが現状です。

実際には、WHOでも残留農薬について一生食べ続けても健康被害ができないかという観点で評価をしていますし、各国でも残留農薬について一定の検査基準を設定していることから、大人にとっては健康被害が出るレベルではないということも同研究にて示唆されています。

衛生面での問題はあるか

農薬には動物の耐菌性を向上させたり、バクテリアなどの汚染を防ぐものがあります。

オーガニック食品はそのような農薬を使用しないことによる衛生面での問題があるのではないかという懸念があります。

先ほどのシステマティックレビューにおいては、オーガニックな肉類を除いてバクテリア感染などの程度に差が見られないことが分かっていますが、一方でオーガニックな肉類からは大腸菌やカンピロバクターと呼ばれる細菌が発見されている事を示唆しています。

健康への直接的な影響が出ることは報告されていませんが、このことから衛生面で懸念が残っているという状況です。

栄養価の違いがあるのか

残念ながら、栄養価についても大きな差は出ていないと、先ほどのシステマティックレビューにおいて報告されています。

一方で、ビタミン、ミネラルなどの栄養価については有意な差は見られませんでしたが、特定のオーガニックな肉類については一価不飽和脂肪酸が低く、オメガ3脂肪酸については47%も含有量が高いことを報告しています。4

体に配慮したオーガニック食品の生産工程において、家畜に対して特定の栄養価が高くなるような飼料を使うなどの工夫もされています。

そのため、乳製品や肉類についてオーガニック食品の方が特定の栄養価が高くなることはありますが、飼料に依るところが大きいため、どのオーガニック食品でも当てはまるという話ではないです。

したがって、総じて栄養価に大きな差があるということは言えないようです。

参考文献

  1. 農林水産省. 『有機食品の検査認証制度』
    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/yuuki.html ↩︎
  2. 農林水産省.『有機食品市場 世界の状況』
    https://www.maff.go.jp/chushi/seisan/kankyo/attach/pdf/yuuki_forum_R4-3.pdf ↩︎
  3. Crystal Smith-Spangler , Margaret L Brandeau, Grace E Hunter, J Clay Bavinger, Maren Pearson, Paul J Eschbach, Vandana Sundaram, Hau Liu, Patricia Schirmer, Christopher Stave, Ingram Olkin, Dena M Bravata. "Are organic foods safer or healthier than conventional alternatives?: a systematic review". Ann Intern Med. 2012 Sep 4;157(5):348-66.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22944875/ ↩︎
  4. Dominika Średnicka-Tober, Marcin Barański, Chris Seal, Roy Sanderson, Charles Benbrook, Håvard Steinshamn, Joanna Gromadzka-Ostrowska, Ewa Rembiałkowska, Krystyna Skwarło-Sońta, Mick Eyre, Giulio Cozzi, Mette Krogh Larsen , Teresa Jordon, Urs Niggli, Tomasz Sakowski, Philip C Calder, Graham C Burdge, Smaragda Sotiraki, Alexandros Stefanakis, Halil Yolcu, Sokratis Stergiadis, Eleni Chatzidimitriou, Gillian Butler, Gavin Stewart, Carlo Leifert. "Composition differences between organic and conventional meat: a systematic literature review and meta-analysis". Br J Nutr. 2016 Mar 28;115(6):994-1011. doi: 10.1017/S0007114515005073.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26878675/ ↩︎

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