今回は「適量のお酒は体に良いのか」について解説します。

先に結論を述べてしまうと、「体に良いとは言えない」となります。

その理由をエビデンスをもとに解説していきます。

お酒と病気の関係について

まずはお酒が病気と関係があるのかについてです。

2016年に195カ国を対象として行われたシステマティック分析では、中央アジアや東ヨーロッパ、その他の地域において、病気の原因にアルコールが10位以内に入っています。また、アルコールによる死亡者推定数は全世界で300万人にも上り、これはタバコや高血圧が原因の死亡者数に匹敵する数となっています。1

特に以下のような病気との関係が強いようです。

  1. 肝臓がん
  2. 心筋症
  3. 肝硬変

これはアルコールの摂取量によって、発症のリスクが変化することも示唆されています。

この結果から、お酒はがんや心疾患系の病気との関係があると考えられています。

お酒に病気の予防効果はあるのか

結論としては、お酒には特定の病気に対しての予防効果があるようです。

アルコールが病気との関係が強いという一方で、一定量のアルコールを摂取した方が発症リスクが下がる病気があります。

2018年に行われた40歳〜69歳の日本人男女102,849人を対象とした10年間の追跡調査では、週140g程度のアルコール摂取であれば、がんや心筋疾患、脳血管疾患などの病気のリスクは上昇しないどころか、少しだけ低くなるということを示唆しています。2

類似の研究としてスウェーデンでの大規模コーホート研究でも、週140g程度のアルコール摂取では総死亡率に有意な上昇は見られませんでした。3

また、アメリカで行われたメタアナリシスでは、週200gまでの飲酒が総死亡リスクの低下と関連していることも報告されています。4

ついでにですが、上記研究より適量を週140g程度のアルコール摂取とし、お酒の量に換算すると以下のようになります。

  • ビール:缶ビール8本
  • ワイン:ボトル2本
  • 日本酒:7合

厚生労働省からも下記のように、多くても毎日のアルコール摂取量は20gまでに留めることが推奨されています。

通常のアルコール代謝能を有する日本人においては「節度ある適度な飲酒」として、1日平均純アルコールで約20g程度である旨の知識を普及する。
なお、この「節度ある適度な飲酒」としては、次のことに留意する必要がある。
1) 女性は男性よりも少ない量が適当である
2) 少量の飲酒で顔面紅潮を来す等アルコール代謝能力の低い者では通常の代謝能を有する人よりも少ない量が適当である
3) 65歳以上の高齢者においては、より少量の飲酒が適当である
4) アルコール依存症者においては適切な支援のもとに完全断酒が必要である
5) 飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない

厚生労働省.『アルコール』5

適量のお酒は体に良いのか

先ほど紹介した研究の結果だけを読み取ると、適量のお酒が健康に良いと考えられます。

注意したいのは、アルコールの摂取量と病気リスクの間に関係があるからといって、アルコール摂取が体に良いということを示しているわけではないということです。

つまり、アルコールを全く飲まない人の方が総死亡率リスクが高くなっているのは、アルコール以外の原因がそうさせている場合があるということです。例えば下記のような場合です。

  • 健康上の理由でアルコールを飲むことがでない
  • アルコールが買えるような経済状況ではない人
  • 高齢でアルコールの摂取を控えている(飲まない人の平均年齢が高い可能性)

このような背景があるため、端的に「お酒を適量飲むことは健康に良い」と判断するのは難しいとされています。

また、厚生労働省から、高血圧、脳出血、乳癌などの病気については適量でも発症リスクが上昇すると発表しています。6

つまり、適量でも特定の病気のリスクを上げることにつながるため、体に良いとは言えないということです。

お酒の種類で健康への影響は変わるのか

お酒と健康の話題で以下のような話がよく出ます。

  • 蒸留酒のような糖質が含まれないお酒は飲んでも太らない
  • ビールはプリン体を多く含んでいて痛風が心配
  • ワインはボリフェノールを多く含んでいるので動脈硬化の予防に繋がる

上記の例は成分の効果として事実ではあるかもしれません。実際にどれくらい健康に影響を与えているのでしょうか。

ビールを例に挙げると、男性が発症しがちな痛風を気にしてビールを控えるという人も多いかと思います。

ビール100ml中5.7mg含まれているとされるプリン体は痛風を発症させるリスクがありますが、実はビールに含まれているアルコールの摂取量の方が痛風を発症させるリスクがああることがわかっています。

2011年に3310人の日本人を対象とした観察研究でも、痛風の原因である高尿酸血症の発症率は、ビールを飲んでいるグループも日本酒を飲んでいるグループも同程度でアルコール摂取量に依存しているという結果が出ています。7

つまり、お酒特有の成分による健康被害よりも、アルコール摂取による健康被害の方がインパクトが大きいということです。

これは健康に良いと言われるポリフェノールを含むワインにも同じことが言えます。

そのため、お酒は健康のために積極的に飲むのではなく、適量を嗜む程度に抑えるのが体への悪影響に繋がりにくいと言えるでしょう。

参考文献

  1. GBD 2016 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators. "Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 328 diseases and injuries for 195 countries, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016". Lancet. 2017 Sep 16;390(10100):1211-1259. doi: 10.1016/S0140-6736(17)32154-2.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28919117/ ↩︎
  2. Eiko Saito, Manami Inoue, Norie Sawada, Hadrien Charvat, Taichi Shimazu, Taiki Yamaji, Motoki Iwasaki, Shizuka Sasazuki, Tetsuya Mizoue, Hiroyasu Iso, Shoichiro Tsugane. "Impact of Alcohol Intake and Drinking Patterns on Mortality From All Causes and Major Causes of Death in a Japanese Population". J Epidemiol. 2018 Mar 5;28(3):140-148. doi: 10.2188/jea.JE20160200. Epub 2017 Nov 11.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29129895/ ↩︎
  3. Behrens G, Leitzmann MF, Sandin S, et al. "The association between alcohol consumption and mortality: the Swedish women’s lifestyleand health study". Eur J Epidemiol. 2011;26(2):81–90.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21267637/ ↩︎
  4. Jayasekara H, English DR, Room R, MacInnis RJ. "Alcohol consumption over time and risk of death: a systematic review and meta-analysis. Am J Epidemiol". 2014;179(9):1049–1059
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24670372/ ↩︎
  5. 厚生労働省.『アルコール』
    https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5.html#:~:text=%E5%BE%93%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%80%81%E9%80%9A%E5%B8%B8%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB%E4%BB%A3%E8%AC%9D,%E7%95%99%E6%84%8F%E3%81%99%E3%82%8B%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82&text=%E2%97%8B%E3%80%8C%E7%AF%80%E5%BA%A6%E3%81%82%E3%82%8B%E9%81%A9%E5%BA%A6%E3%81%AA,%E3%81%AE%E7%9F%A5%E8%AD%98%E3%82%92%E6%99%AE%E5%8F%8A%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%82 ↩︎
  6. Reiko Suzuki, Motoki Iwasaki, Manami Inoue, Shizuka Sasazuki, Norie Sawada, Taiki Yamaji, Taichi Shimazu, Shoichiro Tsugane; Japan Public Health Center-Based Prospective Study Group. "Alcohol consumption-associated breast cancer incidence and potential effect modifiers: the Japan Public Health Center-based Prospective Study". Int J Cancer. 2010 Aug 1;127(3):685-95. doi: 10.1002/ijc.25079.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19960437/ ↩︎
  7. K Nakamura, M Sakurai, K Miura, Y Morikawa, K Yoshita, M Ishizaki, T Kido, Y Naruse, Y Suwazono, H Nakagawa. "Alcohol intake and the risk of hyperuricaemia: a 6-year prospective study in Japanese men". Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2012 Nov;22(11):989-96. doi: 10.1016/j.numecd.2011.01.003. Epub 2011 Mar 21.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21421297/ ↩︎