ジムに行ったり、朝ランニングする時間が取れない

運動の時間を確保しなくても運動不足を解消できる方法を知りたい

今回は「1日の運動時間」をテーマに取り上げていきます。

具体的には下記について解説します。

  1. 運動の妨げになっていること
  2. 1日にどれくらい運動すれば良いのか
  3. 運動すると死亡リスクは下がるのか
  4. 運動習慣があっても死亡リスクが上がる生活習慣

運動の妨げになっている理由

みなさんは運動習慣がありますか?

厚生労働省が毎年報告している『国民健康・栄養調査』によると、日本人で運動習慣(1回30分の運動を週2回、1年以上継続)がある人は男性で33.4%、女性で25.1%であることがわかっています。1大半の人は運動が健康に直結するということを理解していると思いますが、何かしらの理由が運動の妨げになっている場合があります。

上記の報告によると運動習慣の妨げになっている理由のTOP5は下記でした。

  1. 仕事(家事・育児等)が忙しくて時間がないこと
  2. 面倒くさいこと
  3. 年をとったこと
  4. 運動が嫌いなこと
  5. 病気やけがをしていること

時間的な問題から精神的、身体的な理由から運動習慣がない人が多いようです。

運動はしなくても体を動かしていればOK

厚生労働省が健康づくりのための身体活動指針として示している『アクティブガイド』では、ジョギングや筋トレなどの「運動」による活動だけではなく「体を動かす」ことを生活の中に取り入れましょうと書かれています。2

具体的には以下のような動作です。

  • こまめに動く
  • 階段を使う
  • 遠くのトイレを使う
  • 早歩き
  • 自転車通勤
  • キビキビと掃除や洗濯
  • 歩幅を広くする
  • 歩いて買い物

上記に共通しているのは、「今までの生活を大きく変えることはせず、体を動かす時間を増やす工夫をする」ということです。忙しい現代に運動の時間を確保するというのは難しい人が多いため、今の生活のまま体を動かす時間を増やすのは比較的取り組みやすいかと思います。もちろん、筋トレやスポーツ、ランニングなどの運動をする方が、健康的な体づくりには効果的です。

生活に取り込めるか、今一度見直しをしてみてはいかがでしょうか。

メッツを意識して体を動かす

身体活動の強度を表す指標の一つとしてメッツ(Mets)があります。メッツとは座って安静にしている状態を1メッツとした場合、各身体活動が何倍のエネルギー消費量であるかを数値化したものです。「体を動かす」というのは「3メッツ以上」の身体活動の強度を指しています。

国立健康・栄養研究所の『改訂版「身体活動のメッツ(METs)表」』によれば、3メッツ程度の身体活動というのは以下のようなものがあります。3

  • 歩行:4.0km/時、平らで固い地面
  • 掃除全般
  • 子どもを抱き抱えて移動する:体重6.8kg以上の子ども
  • 大工仕事:全般、作業場で
  • 座位:美術品や工芸品、木彫りの工芸品を作る、機織り、紡績、ほどほどの労力
  • 静養・家族で親睦伒:子どもとゲームをして遊ぶ
  • ギターの演奏:ロックンロールバンド、立位
  • ボウリング

上記のような強度の身体活動をどれくらい行えば良いのでしょうか。厚生労働省の『アクティブガイド』では18歳から64歳の人には「1日60分以上」、65歳以上の人には「1日40分以上」を推奨しています。

まとめて時間を確保する必要はなく、1日を通して3メッツを超える身体活動を推奨時間以上行えば良いということです。上記の通り掃除や育児など、生活の中に3メッツを超えるものがいくつもあります。そのような身体活動を増やすことで推奨時間を達成するのが良いかと思います。

運動を取り入れるとより死亡リスクは下がる

まずは生活の中で3メッツ以上の活動を増やすのが良いかと思いますが、さらに健康的な体を手に入れたいのであれば、運動することは避けて通れません。そもそも人間は「動物」なので動くことを前提に今まで進化を続けてきています。それが文明の発達により多くの人が座って1日を過ごすという状態になっています。便利な世の中になっている一方で健康への影響がないわけではありません。

では、体を動かしている人と動かしていない人ではどれくらい死亡リスクが変わるのでしょうか。2015年に余暇時間で散歩やジョギングなどの運動をする時間がある人の死亡リスクの関係を調べた研究があります。その研究によると週に7.5時間以上運動する人の死亡リスクが20%低いことがわかっています。この傾向は運動時間が増加するにつれて最大37%低くなることがわかっています。4厚生労働省が「1日60分の運動」を推奨していることからも、この時間が一つの目安になるかと思います。

もちろん、1日60分運動しないと効果がないというわけではありません。大事なポイントは体を動かす時間が少しでもあれば、全く体を動かさないよりは死亡リスクが下がるということです。少しの時間でも生活の中で体を動かす時間を増やす工夫をしてみましょう。

運動習慣があっても死亡リスクが上がるたった一つの生活習慣

先に結論を述べてしまうと「座りっぱなしの生活習慣」が死亡リスクをあげます。2018年に行われたメタ分析では、座りっぱなしやテレビを観ている時間が長くなるほど糖尿病や循環器系の疾患リスクと死亡リスクが上昇することを示しています。特に座りっぱなしの時間が6~8時間/日、テレビ視聴時間が3~4時間/日を超えてくるとリスクが大幅に上昇するため、避けるべきだと警告しています。5

では運動習慣がある人についてはどうでしょうか。総計1,005,791人ものサンプルデータをもとにしたメタ分析では、対象者を週の運動量に応じて4つの郡に分けて、座りっぱなしの時間と死亡リスクについて分析を行っています。この分析より最も運動習慣がある郡(週35.5メッツ以上)は他の郡よりも死亡リスクが低い一方で、座りっぱなしの時間が8時間/日を超えると死亡リスクが有意に上昇することがわかっています。6

したがって、運動習慣があって体を動かすように意識していても、座りっぱなしの生活習慣が続くと死亡リスクが上がってしまうということです。

回避策

座りっぱなしの時間が長いほど死亡リスクが上がるということは、逆に言えば座りっぱなしの時間を減らせば死亡リスクを減らすことができるということです。そのためにも、1日の生活を振り返って座っている時に何をしているのか洗い出ししてみましょう。

  • 仕事
  • 勉強
  • 食事
  • テレビ視聴
  • スマホ利用
  • 電車での移動中
  • 読書や工作など座って行う趣味

洗い出しが終わったら、それらに対して「座る時間を減らせないか」を考えます。例えば以下のような感じです。

  • 仕事 → スタンディングデスクを利用する
  • 勉強 → スタンディングデスクを使う
  • 食事 → 食事の回数を減らす
  • テレビ視聴 → 家事をしながら観る
  • スマホ利用 → 必要以上は使わないように隔離する
  • 電車での移動中 → 立って本を読む
  • 読書や工作など座って行う趣味 → こまめに立って休憩する

特に「仕事」や「勉強」で座っている時間が長くなっている人が多いかと思います。職場や学校の制約でスタンディングデスクを利用できないのであれば、1時間に10分は立って歩くようにするだけでも体への負担が減るので意識的に生活に取り込んでみてください。

参考文献

  1. 厚生労働省(2022). 『令和元年「国民健康・栄養調査」の結果』
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf ↩︎
  2. 厚生労働省(2013)『アクティブガイド -健康づくりのための身体活動指針-』
    https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpr1.pdf ↩︎
  3. 国立健康・栄養研究所『改訂版「身体活動のメッツ(METs)表」』
    https://www.nibiohn.go.jp/files/2011mets.pdf ↩︎
  4. Hannah Arem, Steven C Moore, Alpa Patel, Patricia Hartge, Amy Berrington de Gonzalez, Kala Visvanathan, Peter T Campbell, Michal Freedman, Elisabete Weiderpass, Hans Olov Adami, Martha S Linet, I-Min Lee, Charles E Matthews. "Leisure time physical activity and mortality: a detailed pooled analysis of the dose-response relationship". JAMA Intern Med. 2015 Jun;175(6):959-67. doi: 10.1001/jamainternmed.2015.0533.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25844730/ ↩︎
  5. Richard Patterson, Eoin McNamara, Marko Tainio, Thiago Hérick de Sá, Andrea D Smith, Stephen J Sharp, Phil Edwards, James Woodcock, Søren Brage, Katrien Wijndaele. "Sedentary behaviour and risk of all-cause, cardiovascular and cancer mortality, and incident type 2 diabetes: a systematic review and dose response meta-analysis". Eur J Epidemiol. 2018 Sep;33(9):811-829. doi: 10.1007/s10654-018-0380-1. Epub 2018 Mar 28.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29589226/ ↩︎
  6. Ulf Ekelund, Jostein Steene-Johannessen, Wendy J Brown, Morten Wang Fagerland, Neville Owen, Kenneth E Powell, Adrian Bauman, I-Min Lee; Lancet Physical Activity Series 2 Executive Committe; Lancet Sedentary Behaviour Working Group. "Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women". Lancet. 2016 Sep 24;388(10051):1302-10. doi: 10.1016/S0140-6736(16)30370-1. Epub 2016 Jul 28.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27475271/ ↩︎

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