カロリー制限が長生きの秘訣と聞いたが本当なのか?
実際に根拠があるのか知りたい。
今回は「カロリー制限」をテーマに取り上げていこうと思います。
健康に良い効果があるのか論文を元に考察し、その内容から制限方法についてもご紹介します。
カロリー制限に科学的根拠はあるのか
カロリー制限が健康に良いというのは感覚の話ではありません。約100年にわたる研究によって徐々にその効果がわかってきています。実際に、今までどのような研究が行われてきたのか3つ紹介します。
1935年のラット実験が始まり
カロリー制限が寿命に良い影響を与える、ということが注目されるようになったのは、1935年にCharles McCay 教授が発表した実験が始まりです。この実験では離乳直後のラットに対して低栄養状態にならない程度にカロリー制限を行ったところ、カロリー制限を行なっていないラットよりも寿命が伸びたことを報告しています。この研究がされてから、多くの研究者が動物実験でカロリー制限と抗老化・寿命延長作用にどのような関連性があるのか研究をするようになりました。
人に近いサルがカロリー制限をするとどうなるのか
老化及び寿命に関する実証実験をしようとすると長期間の実験期間が必要になります。そのため、酵母、ハエ、マウスなどは比較的寿命が短い生物を対象として長年研究されてきました。ただ、ハエやマウスで効果があっても、生物学的にかけ離れている人間でも効果があるとは思わないものです。そこで、より人間に近い動物でカロリー制限について調べる研究があります。その研究とは、人間と遺伝子配列は93%一致しているアカゲザルによるカロリー制限に関する実証実験です。
1980年代にアメリカ国立老化研究所とウィスコンシン大学でアカゲザルを対象とした実証実験、通称「モンキープロジェクト」が開始されました。この実験ではアカゲザルのカロリー摂取量を70%に制限し、寿命にどのような変化があるのかを調べています。長年の実験の結果、2012年にアメリカ国立老化研究所が報告した内容では「カロリー制限は寿命と関係ない」と結論づけていましたが、ウィスコンシン大学と研究データを持ち寄って比較検討したところ、最終的にはカロリー制限を行ったアカゲザルについて、がんや心血管系疾患の発症率が大幅に減少したことがわかっています。また、3分の1は寿命が40歳を超え、世界長寿記録を更新したと報告されています。12 これは人間換算で120歳を超えるという脅威の結果です。このことから、人に近い動物においてもカロリー制限が寿命に良い影響を与える可能性があることがわかります。
人はカロリー制限の効果があるのか
では、最後に人間のカロリー制限についての研究です。ワシントン大学で行われた18年にも及ぶ研究では、必要なビタミン、ミネラルを適切に摂取しつつ、エネルギー摂取量を 20-30%減らすことで、心血管系疾患の発症リスクが、劇的に改善すると報告しています。3 この報告では炎症や細胞の老化、細胞を傷つける活性酸素の減少など、さまざまな病気リスクの低下が見られます。このことからも、人においてカロリー制限が寿命に良い影響を与える可能性があるということがわかります。
カロリー制限の方法
上記の研究より、私たちがどのようなカロリー制限をするのが良いのかいくつか方法を提示します。今の生活スタイルに取り込めそうなものがあれば実践してみましょう。
カロリー制限は上限30%までにする それ以上は逆効果
アメリカ国立老化研究所とウィスコンシン大学でアカゲザルを対象とした実証実験では身長、年齢、性別に応じた摂取エネルギー基準から30%のカロリー制限を行っています。(基準が1000kcalであれば摂取は700kcal)では、人についての摂取エネルギー基準は何を参照すれば良いでしょうか。摂取エネルギーの基準として、厚生労働省が出している 『日本人の食事摂取基準(2020 年版)』において年齢、性別、活動レベルごとに推奨エネルギー必要量が掲載されています。この指標を基にカロリー制限するのが良いかと思います。
一点だけ注意があります。過剰なエネルギー摂取制限は逆効果になります。過剰なエネルギー摂取制限は性欲減退、月経不順、骨密度の低下などの副作用が生じる場合があるようです。4 極端なカロリー制限はしないように注意しましょう。
食べない時間を16時間作る
食べない時間を作ることで、必然と摂取するカロリーを減らすことができます。また、食べない時間を16時間作ると、体内では「オートファジー」と呼ばれる働きが行われます。簡単に言うと、オートファジーとは「細胞内の古くなったタンパク質が分解されて新しくなる、細胞の若返り機能」です。具体的には3つの役割があります。
- 細胞の新陳代謝
- 有害物の排除
- 栄養を吸収する
これらの働きが活性化することで細胞の生まれ変わりが正常に繰り返されて健康寿命を伸ばすことにつながります。しかし、オートファジーの働きが活性化するのは先ほど述べた通り、最後に食事してから16時間後です。何も工夫せずに16時間食事を我慢するのは大変です。個人的には「夜ご飯を早めに食べて朝食抜く」パターンで16時間空けるのがが最も空腹感が少ないと感じたのでおすすめです。
高タンパク・低糖質で空腹感を減らす
空腹感を出来るだけ減らすということは、カロリー制限した食生活を継続するために重要なポイントです。特に注意したいのが外食が多い人です。外食は意識して店とメニューを選ばない限りタンパク質が不足して、糖質が過剰となる傾向にあります。低タンパク質かつ高糖質な食事というのは血糖値スパイクを引き起こします。食事後2~3時間すると脂肪細胞で作られる食欲を抑えるホルモン「レプチン」の分泌が収まります。レプチンの分泌が治まり、血糖値が急激に下がって食欲ホルモン「グレリン」が分泌されるとまた空腹になります。我慢を続けるとどこかで挫折してしまい、思うようにカロリー制限するのが難しくなってしまいます。
そのため、カロリー制限を行うときは高タンパク・低糖質の食事を意識しましょう。特に、鶏肉などタンパク質の多い食べ物は比較的消化に時間がかかるため空腹感が出づらい傾向にあります。また、タンパク質をしっかり摂取することで筋肉分解を抑止し、基礎代謝の維持にもつながるため、体重×1g以上は毎日摂取するようにしましょう。
野菜を沢山食べる
根菜類を除き、大半の野菜は低カロリーで高食物繊維の傾向にあります。これは、カロリー制限をしつつ、食物繊維によって空腹感を減らしカロリーオーバとなることを防いでくれます。
さらに、野菜はしっかり摂取するほど体に良い影響があることもわかっています。2021年にアメリカのブリガムヤング大学で行われた研究では、結果としては、野菜を100g多く摂るごとに細胞の老化度合いの指標でもあるテロメアの長さが寿命換算1.9年分も長かったことがわかっています。つまり、野菜を多く食べている人ほど細胞の老化が遅くなっているということです。5 効率よく野菜を摂取して空腹感を減らし、無理なくカロリー制限することがおすすめです。
カロリー制限のメリット
カロリー制限は寿命に良い影響があるということだけでなく、以下のようなメリットもあります。
血流が良くなる
血管は年齢とともに劣化していき、血流が悪くなります。加齢による影響もありますが、日々の習慣によってこの老化のスピードは遅くすることができます。例えば、以下の習慣を取り入れている人は老化が遅い傾向にあります。
- 定期的な運動習慣がある
- 慢性的なストレスを抱えていない
- 夜ぐっすり寝れていて日中は元気
- 少食である
カロリー制限を行った実験からも分かるとおり、少食であることは血管の老化を抑えて若々しくい続けるために重要なポイントです。
特に、血流の良し悪しに影響を与える要因となるのが全身の血管の9割を占めている毛細血管です。血液は活動エネルギーを使う箇所に集められます。食事を摂ると胃腸で消化・吸収を行うため、血液が集中します。胃腸に血液が集中する頻度が高くなると、それ以外の細胞に栄養・水分・酸素が十分に送り届けられずに細胞の老化が進行してしまいます。空腹時間を作ることでこの細胞の老化を遅らせ血流を良くすることができます。カロリー制限だけでなく、睡眠も血流を良くすることに繋がるため併せて実践してみてください。
自立神経が整う
心臓を動かしたり、呼吸をしたり、私たちが無意識に行っているこのような生命活動は自律神経による働きです。自律神経は呼吸器、循環器、消化器などの器官の活動をコントロールしてくれています。自律神経は交感神経と副交感神経が互いにバランスを取り合って対となる役割を果たしています。
- 交感神経:心身をアクティブな状態にする働きがあり、血管が収縮して血圧が上昇し、興奮・緊張状態に近づく。
- 副交感神経:心身をリラックス状態にする働きがあり、交感神経と反対に血管は緩み血圧が低下し、気分が落ち着く。
自律神経が整うポイントは「生活リズムが安定しているか」という点です。毎日同じ時間に起きて、同じ時間に食事を摂って、同じ時間に寝る。生活リズムにブレが少なく安定しているほど自律神経は整います。一方で、徹夜したり、過食によって生活リズムが崩れ始めると、途端に自律神経が乱れ始めます。特にストレスを強く感じた時に過食となる傾向にあるため、正しいストレス解消法を身につけて回避しましょう。
日中の集中力が向上する
高カロリーとなる一要因は主食です。特にパンやご飯、麺類などの糖質中心の食事を摂ると、食後30分ほどで、「血糖値スパイク」が体の中で起こります。血糖値スパイクによって急激に血液中の糖質量が増えると膵臓からインスリンの大量分泌されます。インスリンの大量分泌により血糖値は急激に低下し、集中力低下につながります。そして何より眠くなります。
逆にいうと、カロリー制限によって高糖質なものを避けると高い集中力を維持することができるようになります。どうしても高糖質なものを食べたくなったら以下の特徴があるものを口にすればある程度収まります。
- 糖質の量が少ない傾向にある(脂質、タンパク質の比重が高い)
- 食物繊維を多く含んでいる
- 茶色・黒いもの
- 高タンパクである
細胞の老化を抑える
人間の細胞は分裂できる回数に限りがあります。その限界を「ヘイフリック限界」と呼び、だいたい50回程度と言われています。ただし、細胞分裂がこの50回に届く前に分裂が止まることがあります。その三大要因が下記と言われています。
- 炎症
- 糖化
- 酸化ストレス
まず炎症について、nature誌に掲載された炎症を抑える機能を損失させた遺伝子をもつマウスを用意して慢性炎症がどうなるのかを調査した研究では、遺伝子操作したマウスにおいて野生のマウスよりも全身の細胞において老化細胞の増殖スピードが速く、遺伝子操作をしていないマウスに比べて寿命が短くなったことを報告しています。6
次に糖化について、糖化とはいわゆる体が焦げることです。血液中に過剰な糖分があると、体内のたんぱく質や脂質と結びついて変性し、老化促進物質であるAGEs(Advanced Glycation End Products:終末糖化産物)を作り出します。このAGEsは糖尿病の原因になるだけでなく、血管や内臓、皮膚など全身の細胞を老化させる物質です。カルフォルニア大学サンフランシスコ校で行われた研究では、砂糖が大量に使用されたソーダを1日平均600ml飲んでいる人は、テロメアの塩基配列の長さ換算で約4.6年老化が加速していることを示唆しています。7 これはタバコを吸っている人と同じくらいの老化スピードです。
空腹時間を作ることは、細胞の老化の原因となるこの「炎症」と「糖化」を抑えることにつながります。ぜひ実践してアンチエイジングをしましょう。
参考文献
- Ricki J Colman, Rozalyn M Anderson, Sterling C Johnson, Erik K Kastman, Kristopher J Kosmatka, T Mark Beasley, David B Allison, Christina Cruzen, Heather A Simmons, Joseph W Kemnitz, Richard Weindruch. "Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesus monkeys". Science. 2009 Jul 10;325(5937):201-4. doi: 10.1126/science.1173635.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19590001/ ↩︎ - Julie A Mattison, Ricki J Colman, T Mark Beasley, David B Allison, Joseph W Kemnitz, George S Roth, Donald K Ingram, Richard Weindruch, Rafael de Cabo, Rozalyn M Anderson. "Caloric restriction improves health and survival of rhesus monkeys". Nat Commun. 2017 Jan 17:8:14063. doi: 10.1038/ncomms14063.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28094793/ ↩︎ - ルイージ・フォンタナ (2022)『科学的エビデンスにもとづく 100歳まで健康に生きるための25のメソッド』. 東京大学出版会 ↩︎
- 厚生労働省. 『日本人の食事摂取基準(2020 年版)』
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf ↩︎ - Larry A Tucker. "Fruit and Vegetable Intake and Telomere Length in a Random Sample of 5448 U.S. Adult". 2021 Apr 23;13(5):1415.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33922436/ ↩︎ - Diana Jurk, Caroline Wilson, João F. Passos, Fiona Oakley, Clara Correia-Melo, Laura Greaves, Gabriele Saretzki, Chris Fox, Conor Lawless, Rhys Anderson, Graeme Hewitt, Sylvia LF Pender, Nicola Fullard, Glyn Nelson, Jelena Mann, Bart van de Sluis, Derek A. Mann & Thomas von Zglinicki "Chronic inflammation induces telomere dysfunction and accelerates ageing in mice". Nat Commun. 2014 Jun 24:2:4172. doi: 10.1038/ncomms5172.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24960204/ ↩︎ - Cindy W. Leung, ScD,corresponding author Barbara A. Laraia, PhD, Belinda L. Needham, PhD, David H. Rehkopf, ScD, Nancy E. Adler, PhD, Jue Lin, PhD, Elizabeth H. Blackburn, PhD, and Elissa S. Epel, PhDcorresponding author . "Soda and Cell Aging: Associations Between Sugar-Sweetened Beverage Consumption and Leukocyte Telomere Length in Healthy Adults From the National Health and Nutrition Examination Surveys". Am J Public Health. 2014 Dec;104(12):2425-31. doi: 10.2105/AJPH.2014.302151. Epub 2014 Oct 16.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25322305/ ↩︎