筋肉を大きくしたいけど、避けた方が良いことがあれば知りたい

今回は「筋肉を大きくする上で避けるべきこと」を取り上げていきます。

最近トレーニングを始めた人や、なかなか体が大きくならないと悩んでいる人に向けて化学的根拠を元に9つ紹介していきます。

タンパク質不足

筋肉に一番影響を与えるのは「食事」です。どれだけ高負荷なトレーニングを長時間行ったとしても、十分な栄養が食事から摂取できていなければ逆効果です。特にタンパク質が不足していると致命的です。筋合成がされず、筋肉量が増えません。

では、どれくらいタンパク質を摂取すれば良いのか。1日のタンパク質摂取量と筋肉量の関係を調べた、49の論文を元にしたメタ分析があります。この分析によると「体重1kgあたり1.6g」までタンパク質摂取量を増やすと筋肉量が増加すると示されています。1

また、タンパク質の摂取間隔と1回の摂取量によって筋肉が付きやすいか変わってきます。80gのタンパク質を下記3パターンで摂取した場合の筋肉合成率の違いを調査した研究があります。2

  1. 40gを2回
  2. 20gを4回
  3. 15gを6回

結果としては、「2. 20gを4回」が最も筋肉合成率が高かったことがわかっています。つまり、一度に大量に摂りすぎても、少な過ぎても効果が小さくなってしまうということです。

したがって、筋肉を大きくしたい人は最低限「体重1kgあたり1.6g」のタンパク質を「1回20g以上」で毎日摂るようにしましょう。1点だけ気をつけたいポイントがあります。これらの研究では、必要以上のタンパク質を摂取しても筋肉量にほぼ変化がないことが報告されています。過剰なタンパク質摂取は腎臓の負担が大きくなり、肝機能障害や尿路結石のリスクが上がるため注意が必要です。

過度なカロリー制限

筋肉を付け、無駄な脂肪は減らすことで理想の体を作りたいですよね。その手段の一つがカロリー制限です。カロリー制限は寿命に関してプラスに働くことが多くの研究で示されています。3 4 私も健康寿命を伸ばすため、カロリー摂取にはかなり気を配っています。

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カロリー制限が寿命に良い影響を与える、ということが注目されるようになったのは、1935年にCharles McCay 教授が発表した実験が始まりです。この実験では離乳直後のラッ…

適度なカロリー制限は健康に良いとされていますが、筋肉を大きくするという観点においてはマイナスに働きます。特に体脂肪を減らしたいと思って過度なカロリー制限をしている人は、体脂肪に加えて筋肉分解が促進されます。それでは、筋肉分解を抑えつつ減量するにはどうしたら良いのか。減量する際、出来るだけ筋肉分解を抑えるには下記が有効であるとわかっています。5 6

  • 1週間の体脂肪率減少を0.7%までに留める
  • 摂取カロリーは極力変えず、運動による消費エネルギーを増やして体脂肪を燃やす

水分不足

運動をする時の水分補給は熱中症や脱水症状を防ぐだけでなく、筋肉を大きくすることにも関係してきます。具体的には、水分摂取が不足していると筋組織を刺激する中枢神経系の機能が低下し、筋トレのパフォーマンスが大幅に低下することがわかっています。7 水分補給も兼ねてプロテインを摂取するのがおすすめです。水分摂取と血中アミノ酸濃度を高めてトレーニングの効果が出やすくなります。

また、硬度は120mg以下の「軟水」がおすすめです。ミネラルには人体で処理できない無機ミネラルを含みます。この無機ミネラルは汗として発散するために皮下脂肪に蓄えられます。しかし、現代は室温調整が容易でき汗をかきづらく体内に滞留するため軟水を選ぶようにしましょう。

アルコール摂取

運動後にタンパク質と併せてアルコールを摂取すると、筋肉の合成が抑制されることが実証実験で示唆されています。8 大好きな酒を我慢しなくちゃいけないのか、と思う人もいるかもしれません。そのような方はトレーニングをしない日に飲むか隔日にすることで、筋肉を合成する時間を作りましょう。

睡眠不足

睡眠不足は筋肉が付かないどころか収縮してしまう可能性があります。2011年に行われた研究では、睡眠負債が筋肉合成率を低下させて筋肉量を低下させると同時に睡眠中の筋肉の修復を阻害すると報告しています。9 理想的な睡眠時間は人によって異なりますが、統計的に最も体に良いとされている睡眠時間は7時間から8時間です。この睡眠時間より短くても長くても様々な病気のリスクが向上することがわかっています。10 しっかりトレーニングをしたら十分に休んで筋肉を回復させましょう。

糖質不足

トレーニングで高いパフォーマンスを発揮するためには糖質の摂取が必須です。糖質は体内で分解・吸収されて筋肉に筋グリコーゲンとして貯蓄されます。トレーニングを行う時はこのグリコーゲンをエネルギーとして使われます。糖質が不足していると筋肉に貯蓄されているグリコーゲンが不足し、高負荷でのトレーニングが難しくなってしまいます。

どれくらい糖質を摂れば良いかというと、「1時間のトレーニングあたり30~60g追加」が目安になります。筋肥大に人生を掛けている人を除いて、これ以上を摂取するのは老化や肥満、糖尿病リスクの観点からあまりおすすめできません。必要な分摂取してトレーニングでのパフォーマンスを上げるようにしましょう。

また、トレーニング後に糖質を摂取することで筋分解が抑制されることがわかっています。11したがって、トレーニング前だけでなく終わった後も軽く糖質摂取することが効果的です。

有酸素運動のやり過ぎ

有酸素運動のやり過ぎは筋肉分解を促進させます。確かに、有酸素運動は体脂肪の燃焼効率が良く、BDNFと呼ばれる脳の成長を促す物質の分泌をするといったメリットの大きい運動です。しかし、長時間の有酸素運動は体脂肪だけでなく、筋肉もエネルギー源として消費されるリスクがあります。不要な筋肉と脂肪が削ぎ落とされたマラソン選手をイメージするとわかりやすいかと思います。筋肉量を減らさずに、有酸素運動を行う方法として下記が挙げられます。

  • ウォーキング
  • HITT

トレーニングの強度が低い

レップ数とセット数を増やした方が良いと思い、低強度のトレーニングを高回数行うというのは効果が低くなってしまいます。筋肥大のためには「6〜12レップ」が限界となる高負荷が適切とされています。12 目安の負荷は「最大負荷の67%〜85%」です。これよりも低強度で高回数を行うのは有酸素運動になってしまいます。しっかりとしたフォームを覚えて負荷をしっかり掛けることが筋肥大のポイントになります。

トレーニングの頻度が低い

トレーニングの頻度が低いと筋肥大しないというのは当たり前ですが、どれくらいの頻度を行う必要があるのでしょうか。22件の研究を元にしたメタ分析では、「週4回以上」トレーニングを行うことが最も筋肥大効果が高くなると報告しています。ただし、4回分のトレーニングを1日にまとめて行っても同程度の効果が得られるようで、むやみにトレーニング日数を増やしたからといって筋肥大につながるというわけではないようです。13

参考文献

  1. Robert W Morton, Kevin T Murphy, Sean R McKellar, Brad J Schoenfeld, Menno Henselmans, Eric Helms, Alan A Aragon, Michaela C Devries, Laura Banfield, James W Krieger, Stuart M Phillips. "A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults". Br J Sports Med. 2018 Mar;52(6):376-384. doi: 10.1136/bjsports-2017-097608. Epub 2017 Jul 11.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28698222/ ↩︎
  2. José L Areta, Louise M Burke, Megan L Ross, Donny M Camera, Daniel W D West, Elizabeth M Broad, Nikki A Jeacocke, Daniel R Moore, Trent Stellingwerff, Stuart M Phillips, John A Hawley, Vernon G Coffey. "Timing and distribution of protein ingestion during prolonged recovery from resistance exercise alters myofibrillar protein synthesis". J Physiol
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    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23459753/ ↩︎
  3. Ricki J Colman, Rozalyn M Anderson, Sterling C Johnson, Erik K Kastman, Kristopher J Kosmatka, T Mark Beasley, David B Allison, Christina Cruzen, Heather A Simmons, Joseph W Kemnitz, Richard Weindruch. "Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesus monkeys". Science. 2009 Jul 10;325(5937):201-4. doi: 10.1126/science.1173635.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19590001/ ↩︎
  4.  Julie A Mattison, Ricki J Colman, T Mark Beasley, David B Allison, Joseph W Kemnitz, George S Roth, Donald K Ingram, Richard Weindruch, Rafael de Cabo, Rozalyn M Anderson. "Caloric restriction improves health and survival of rhesus monkeys". Nat Commun. 2017 Jan 17:8:14063. doi: 10.1038/ncomms14063.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28094793/ ↩︎
  5. Ina Garthe, Truls Raastad, Per Egil Refsnes, Anu Koivisto, Jorunn Sundgot-Borgen. "Effect of two different weight-loss rates on body composition and strength and power-related performance in elite athletes". Int J Sport Nutr Exerc Metab
    . 2011 Apr;21(2):97-104. doi: 10.1123/ijsnem.21.2.97.
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  6. Eileen M Weinheimer, Laura P Sands, Wayne W Campbell. "A systematic review of the separate and combined effects of energy restriction and exercise on fat-free mass in middle-aged and older adults: implications for sarcopenic obesity". Nutr Rev. 2010 Jul;68(7):375-88. doi: 10.1111/j.1753-4887.2010.00298.x.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20591106/ ↩︎
  7. Daniel A Judelson, Carl M Maresh, Mark J Farrell, Linda M Yamamoto, Lawrence E Armstrong, William J Kraemer, Jeff S Volek, Barry A Spiering, Douglas J Casa, Jeffrey M Anderson. "Effect of hydration state on strength, power, and resistance exercise performance". Med Sci Sports Exerc. 2007 Oct;39(10):1817-24. doi: 10.1249/mss.0b013e3180de5f22.
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  8. Evelyn B Parr, Donny M Camera, José L Areta, Louise M Burke, Stuart M Phillips, John A Hawley, Vernon G Coffey. "Alcohol ingestion impairs maximal post-exercise rates of myofibrillar protein synthesis following a single bout of concurrent training". PLoS One. 2014 Feb 12;9(2):e88384. doi: 10.1371/journal.pone.0088384. eCollection 2014.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24533082/ ↩︎
  9. M Dattilo, H K M Antunes, A Medeiros, M Mônico Neto, H S Souza, S Tufik, M T de Mello. "Sleep and muscle recovery: endocrinological and molecular basis for a new and promising hypothesis". Med Hypotheses. 2011 Aug;77(2):220-2. doi: 10.1016/j.mehy.2011.04.017. Epub 2011 May 7.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21550729/ ↩︎
  10. Daniel F. Kripke, MD; Lawrence Garfinkel, MA; Deborah L. Wingard, PhD. "Mortality Associated With Sleep Duration and Insomnia". Arch Gen Psychiatry. 2002;59(2):131-136.
    https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/fullarticle/206050 ↩︎
  11. Campbell, Bill I, Wilborn, Colin D, La Bounty, Paul M, Wilson, Jacob M. "Nutrient Timing for Resistance Exercise". Strength and Conditioning Journal 34(4):p 2-10, August 2012. | DOI: 10.1519/SSC.0b013e3182558e16
    https://journals.lww.com/nsca-scj/fulltext/2012/08000/nutrient_timing_for_resistance_exercise.2.aspx ↩︎
  12. Menno Henselmans 1, Brad J Schoenfeld. "The effect of inter-set rest intervals on resistance exercise-induced muscle hypertrophy". Sports Med. 2014 Dec;44(12):1635-43. doi: 10.1007/s40279-014-0228-0.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25047853/ ↩︎
  13. Jozo Grgic, Brad J Schoenfeld, Timothy B Davies, Bruno Lazinica, James W Krieger, Zeljko Pedisic. "Effect of Resistance Training Frequency on Gains in Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis". Sports Med. 2018 May;48(5):1207-1220. doi: 10.1007/s40279-018-0872-x.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29470825/ ↩︎