「ごめんなさい」と言う言葉は幼少期から学び、使っている言葉の一つです。

大人になると人に迷惑をかけたり、間違ったことをしたり、はたまた人に何かしてもらった時でさえ「すいません」と謝ります。ある年齢になるまで謝ることが増える傾向にありますが、世の中には謝れない人というのがいます。

「防衛心やプライドの問題だ」と言えばそれまでですが、実際のところ本当にそれだけの問題なのでしょうか。

今回は間違ったことをした時に謝れない人がどのような心理となっているのか、どうすれば素直に謝ることができるようになるのかについて、いくつか調査を引用して紹介していこうと思います。

調査①:謝らない人の5つの理由(5 Reasons Why Some People Will Never Say Sorry)

一つ目の調査は「Psychology Today」に掲載された『謝らない人がいる5つの理由(5 Reasons Why Some People Will Never Say Sorry)』です。1

この記事では謝らないのは「セルフイメージ」を守ろうとする強い力が働いているためと説明されています。

端的にいうと「自分のイメージが悪くなりそう」と思っているということです。

セルフイメージとは、自分自身に向けられる意識のことです。向けられる自己の側面によって2つに分けられます。

  1. 公的セルフイメージ:容姿や振る舞い方など、他者が観察できる表面的な意識
  2. 私的セルフイメージ:感覚、感情、思考など他者から観察できない内面的な意識

謝ることで「公的セルフイメージ」と「私的セルフイメージ」が大きく変わってしまうという恐怖から謝ることを避けるというのです。

このように考えてしまうのは5つの理由があります。

謝らない人がいる理由

  1. 人格と謝罪を分けて考えられないため
    謝れない人は間違いを認めることは自分の人格を脅かす行動だと思う傾向にある。たとえば「人に迷惑をかけるなんて自分本位で思いやりがない人だ」「間違ったことをするのは愚かな人だ」と考える。このように「謝る=人格が悪い」という認識をしているため、謝ることに抵抗を感じる
  2. 恥ずかしいと感じるため
    「謝るのは恥ずかしいことだ」という潜在意識から羞恥心を感じて謝れなくなる
  3. 弱みに漬け込まれると思うため
    一度でも謝れば相手はそれを良いことに、さらなる避難をしてくるのではないかという恐怖心を感じる
  4. 「相手が責任逃れするのでは」と考えるため
    「誤ったほうが全ての原因を持っている」と自分のせいではないことまでも自分のせいにされると思ってしまう
  5. 相手に心を開くことができないため
    人と親密になるほど自分の感情が揺さぶられると思いこみ、他人と心理的な距離が近いことを脅威に感じてしまう。謝ることで少しでも警戒心を弱めてしまうと心理的防御が崩れ、悲しみや絶望があふれ出し、それを止める術がなくなることを恐れてしまう

調査②:なぜ謝るのは難しいのか(Why Is It So Hard to Apologize?)

二つ目の調査は「mindful」に掲載された『なぜ謝るのは難しいのか(Why Is It So Hard to Apologize?)』です。2

この調査では謝るのが難しい理由は2つと説明しています。

謝るのが難しい理由

  1. 加害者と被害者で認識のずれがあるため
    被害者に比べて加害者は自分のことを正当化したり、過ちを軽視することで、自分への精神的なダメージを最小限にしようとする。さらに被害者側にも非があるという責任転換をすることで、自らの精神負担を減らすように都合の良い事実だけを切り取る。これによって被害者との認識ずれが生じる
  2. 加害者側が「謝るほどではない」と思っているため
    人によって謝るべき基準というのは異なります。「人にぶつかったらどんな場合でも謝るべき」と思う人もいれば「人混みの中であれば仕方ない」と思う人もいます。被害者側は謝ってほしいと思っていても加害者側が謝るほどのことではないと考えていれば、被害者から見ると「謝らない人」が一定数出てくる

謝ることをしないことでその人自身にも心理的な変化があることが示されています。

2012年に行われた実証実験では、謝罪を明確に拒否する人は謝罪をする人に比べて自尊心が高くなり他者をコントロールしたいと思う感情が強くなったと報告しています。3

自尊心を高く持つこと自体は良いことのように思えます。ただ、調査①から分かるように自尊心が高くなりすぎるとセルフイメージを守ろうとする強い力が働きます。謝れない人は「謝ることはセルフイメージを揺るがす」と思うためことに対して抵抗感を強く感じてしまいます。

では、どうすれば謝れない人が素直に謝れるようになるのか。

ピッツバーグ大学心理学部の准教授であるシューマン氏によると、自分の価値観に焦点を当てると謝ることを厭わなくなるようです。

今までに出てきた謝らない理由というのは「相手にどう思われるのか」という相手に焦点が当たった考え方です。ここでは自分の価値観の中でも特に評価しているポイント(好きなこと、正義)を考えることで揺るがないセルフイメージを実感でき、素直に謝ることができるようになるとのことです。

謝ることでセルフイメージは変わらないと思えたら、実際に謝るときのポイントです。

謝るときのポイントは3つです。

謝るときのポイント

  1. 具体的にどこが良くなかったのかを添えて謝る
    「すいません」と一言で済む場合もありますが、相手にとっては深く傷ついていることもある。その時はできるだけ具体的にどこが良くなかったかを添えて謝るようにすることで誠意を伝える。
  2. 「でも」「けど」などの逆説的な言葉は使わない
    謝った後に「でも」「けど」という逆説的な言葉を使うと、謝るつもりだとしても、「本心では謝る気があったわけではなかった」という意図で相手に伝わる。言い訳はせず、謝るときはキッパリと非を詫びる。
  3. お詫び・改善策の提案をする
    謝るだけでなく、お詫び・改善策の提案を行なって行動で示すようにします。「お詫びに〜をさせていただけないでしょうか」「次回からは〜を変えて不快な思いをさせないようにします」と提案をして誠意を見せる。

私はいつも完璧にこの3つのポイントができているわけではありません。ただ、謝るときはこの3つのポイントを思い出してできるだけ誠意が伝わるように謝るように心がけています。

調査③:謝れない人は自分にも優しくなれない(People Who Never Apologize Probably Aren't Nice to Themselves, Either)

三つ目の調査は「VICE」に掲載された『謝れない人は自分にも優しくなれない(People Who Never Apologize Probably Aren't Nice to Themselves, Either)』です。4

謝れない人というのはどこか頭が硬くて峻厳な性格の人を想像しますよね。実際、謝れない人はどのような性格の傾向にあるのかをこの調査では調べています。

この調査の中で紹介されている研究では、セルフ・コンパッションと謝罪する意欲があるのかの関係を調べています。

セルフ・コンパッションとは自分を大切に思い、前向きな気持ちを持ち続ける心理状態のことを指します。

2018年に行われた研究の結論としては、セルフ・コンパッションを実践している人ほど謝罪する意欲は高くなり、過ちを犯した時に素直に謝れる傾向にあることを報告しています。5

逆にいうと、セルフ・コンパッションを実践していない自分を大切に思っていない人は素直に謝罪することができない傾向にあるということです。

では、なぜセルフ・コンパッションを実践している人が素直に謝ることができるのか。それは羞恥心に関係していると言います。

セルフ・コンパッションを実践している人は、全体的に羞恥心のレベルが低い傾向にあります。ただ、自分の過ちに対して羞恥心を抱かないということではありません。セルフ・コンパッションを実践している人は、恥をかいたという経験に対して、避けたり引きこもったりして行動することが少ないようです。

セルフ・コンパッションには、3つの重要な要素が含まれています。

セルフ・コンパッションの3つの要素

  1. 苦しい時も自分を大切にする能力
  2. 「人間は誰でも間違いを犯す」という思考
  3. 自分の感情を客観視する能力

この3つの重要な要素を育てる唯一の方法が「瞑想」です。

瞑想のやり方については下記で紹介しています。

【マインドフルネス】不安や悩みが解消する瞑想法5選 科学的に脳を休ませる方法とは?

基本的な瞑想法であるマインドフルネス呼吸法から説明します。この瞑想法はこのような時におすすめです。 注意散漫になっている時 無気力で何もやる気にならない時 ちょ…

まとめ

紹介した3つの調査の要点を整理します。

調査の結論

  1. 調査①:謝らない人の5つの理由(5 Reasons Why Some People Will Never Say Sorry)
    謝らない理由は「セルフイメージ」を守ろうとする強い力が働いているためである。具体的には5つ
    • 人格と謝罪を分けて考えられないため
    • 恥ずかしいと感じるため
    • 弱みに漬け込まれると思うため
    • 「相手が責任逃れするのでは」と考えるため
    • 相手に心を開くことができないため
  2. 調査②:なぜ謝るのは難しいのか(Why Is It So Hard to Apologize?)
    謝らない人がいる理由は2つ
    • 加害者と被害者で認識のずれがあるため
    • 加害者側が「謝るほどではない」と思っているため
  3. 調査③:謝れない人は自分にも優しくなれない(People Who Never Apologize Probably Aren't Nice to Themselves, Either)
    自分を大切に思っていない人は羞恥心を感じやすく、素直に謝罪することができない傾向にある。素直に謝れるようになるためにセルフ・コンパッションを実践する。

それぞれの調査から素直に謝れる人になるための、私なりのアクションプランは下記の通りです。

アクションプラン

  1. 調査①:謝らない人の5つの理由(5 Reasons Why Some People Will Never Say Sorry)
    →「相手にどう思われるか」という相手の感情に焦点を当てるのではなく、自分の価値観に焦点を当てて考えるようにする
  2. 調査②:なぜ謝るのは難しいのか(Why Is It So Hard to Apologize?)
    →認識ずれがないようにアサーション(自分も相手も大事にして主張するコミュニケーション)を行う
  3. 調査③:謝れない人は自分にも優しくなれない(People Who Never Apologize Probably Aren't Nice to Themselves, Either)
    →セルフ・コンパッションを実践する。そのためにも、まずは瞑想でセルフ・コンパッションに必要な要素を伸ばす。

もし、素直に謝ることができないという人はぜひ実践してみてください。

  1. Guy Winch Ph.D(2013). 『5 Reasons Why Some People Will Never Say Sorry』
    https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-squeaky-wheel/201305/5-reasons-why-some-people-will-never-say-sorry ↩︎
  2. SHARON BEGLEY(2019). 『Why Is It So Hard to Apologize?』
    https://www.mindful.org/why-is-it-so-hard-to-apologize/#:~:text=Saying%20sorry%20puts%20one's%20shameful,offer%20one%2C%E2%80%9D%20Schumann%20said. ↩︎
  3. Tyler G. Okimoto, Michael Wenzel, Kyli Hedrick. "Refusing to apologize can have psychological benefits (and we issue no mea culpa for this research finding)". 04 November 2012 https://doi.org/10.1002/ejsp.1901
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ejsp.1901 ↩︎
  4. VICE(2018). 『People Who Never Apologize Probably Aren't Nice to Themselves, Either』
    https://www.vice.com/en/article/wj48nz/people-who-never-apologize-probably-arent-nice-to-themselves-either ↩︎
  5. Anna Vazeou-Nieuwenhuis, Karina Schumann. "Self-compassionate and apologetic? How and why having compassion toward the self relates to a willingness to apologize". Personality and Individual Differences Volume 124, 1 April 2018, Pages 71-76
    https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0191886917307092 ↩︎