フォッグ行動モデルとは

フォッグ行動モデルとはBJフォッグ教授によって提唱された行動科学のモデルの一つです。

これは「商品を購入する」「早起きしてシャワーを浴びる」「運動する」などのある行動(Behavior)をするのは、3つの要素で決まるという消費者行動モデルです。1

その3つの要素というのは下記の3つです。

  1. モチベーション(Motivation)
  2. 能力(Ability)
  3. きっかけ(Prompt)

図にすると以下のようになります。

この図では「行動曲線」と呼ばれる境界線があり、この境界線よりも右上にいる場合は「行動する」、左下にいる場合は「行動しない」となります。

モチベーション(Motivation)

一般的にモチベーションは「やる気があるか/ないのか」と解釈されますが、フォッグ行動モデルにおけるモチベーションとはそれだけではありません。

フォッグ行動モデルにおけるモチベーションは3つの要素に分解されます。

  1. 行為:その行動をすると何が得するのか、その行動をしないと何が損するのか
  2. 状況:「周囲が助けてくれる」「みんな同じことをしている」など行動しやすい状況にあるのか
  3. 欲求:「どうしてもやりたい!」という内に秘めた願望

具体例

  • 明日までに卒論を提出しないと留年してしまう 
     → 行為のモチベーションが「高い」
  • ダイエットのために友人が一緒に走ってくれる 
     → 状況のモチベーションが「高い」
  • 使う必要がないと思っている英語学習 
     → 欲求のモチベーションが「低い」

この3つの要素が組み合わさってモチベーションは変化します。

モチベーションの特徴として、その日の気分や状況によって変動するということです。

「今日は雨が降ってるからランニングはやめておこう」「今日は胃腸の調子が悪いから脂っこいものは避けよう」と気分と状況によって絶え間なく変動しています。

モチベーションが一定以上下がると行動曲線を下回り行動しなくなります。「昨日はやったけど今日はやらなかった」という現象が起きるのは、基本モチベーション低下によって行動曲線を下回ったのが原因です。

能力(Ability)

能力とは一言で言えば「その行動をどれだけ簡単にできるか」ということです。

フォッグ行動モデルにおける能力は5つの要素に分解されます。

  1. 時間:実行するための十分な時間があるか。
  2. 資金: 必要な費用を負担できるか。
  3. 習慣:日常や習慣として組み込まれているか。
  4. 知的能力:行動に必要な要素を理解するための知能を持っているか。
  5. 身体的能力:実行するための身体的能力を持っているか。

具体例

  • 予定が埋まっていない投資家が明日から旅行に行く
     → 時間資金の能力が「高い」
  • 高校生が算数の問題を解く
     → 知的能力が「高い」
  • 初心者がベンチプレス100kgに挑戦する
     → 身体的能力が「低い」

この5つの要素に行動を当てはめることで、行動に対する能力が「高い」か「低い」か決まります。

能力の特徴として、日よって高くなったり低くなるような「波」はありません。

急に必要な資金が手に入ったり、知的能力が急激に身に付くということはほとんどありません。

モチベーションがあるのに行動できないという人はその行動を実行するための能力が足りていない可能性があります。その場合、上記5つの要素を伸ばすことで能力を高める必要があります。

きっかけ(Prompt)

フォッグ行動モデルにおけるきっかけは2つの要素に分解されます。

  1. 外的きっかけ:メッセージや通知など、外部の刺激によるきっかけ。
  2. 内的きっかけ:感情や思考など、内部からの自然なきっかけ。

具体例

  • 目覚まし時計のアラームで目が覚める
     → 外的きっかけ
  • 家を出た後に忘れ物を思い出した
     → 内的きっかけ

この2つのきっかけは「発生する/発生しない」のどちらかしかありません。

きっかけの特徴として、行動を起こすために必ず必要な要素ということです。

「モチベーション」と「能力」をいくら高めたとしても、「きっかけ」を作ることができなければ行動にはつながりません。

この特徴をうまく使いこなし、「暴飲暴食」や「スマホ依存」などのやめたい行動はきっかけをなくす、「勉強」や「運動」などのやりたい行動はきっかけを作ることが一つのポイントになります。

フォッグ行動モデルに基づいた行動する人になる7つのステップ

フォッグ行動モデルをもとに、行動するためのステップは以下の通りです。

行動するための7つのステップ

  • ステップ1:「目的」を明確にする
  • ステップ2:「行動」を洗い出して選ぶ
  • ステップ3:効果的な「きっかけ」を作る
  • ステップ4:小さく始める
  • ステップ5:行動したら褒める
  • ステップ6:継続する
  • ステップ7:「行動」を大きくする

ステップ1:「目的」を明確にする

最初のステップとして「なぜその行動をしようとしているのか」という「目的」を明確にします。

自分は何を求めているのか?どのような理由があって行動しようと思っているのか?どんな状態になっていたいのか?

自分の内側にある考えを書き出します。

次にその考えに対して「なぜ?」と問いかけをします。

例えば、「体重を落としてスタイルを良くしたい」という考えを書いたとします。そしたら「なぜそれをしようと思ったのか」ということを自問します。

純粋に「スタイルを良くしたい」と思っているだけかもしれませんし、「魅力的な人になって恋人と幸せな時間を過ごしたい」と心の奥底では思っている場合もあります。

この自問自答を繰り返し行い、行動する本当の目的を明確にするのです。

ステップ2:「行動」を洗い出して選ぶ

ステップ1で設定した目的が「魅力的な人になって恋人と幸せな時間を過ごす」だったとします。

ステップ2では、この「魅力的な人になって恋人と幸せな時間を過ごす」という目的を実現するために必要な行動が何かを洗い出していきます。

必要な行動が何かを洗い出す時のポイントは3つです。

  1. アイデアを批判・評価しない
  2. 自由にアイデアを出す
  3. 質よりも量を重視する

この3つのポイントを押さえて、できるだけ洗い出ししていきます。(私はChatGTPを活用しています)

(例)「魅力的な人になって恋人と幸せな時間を過ごす」ための行動

  • 出会いの場に行って相手を見つける
  • 運動する
  • 本を読む
  • コミュニケーション能力を高める
  • 健康的な食生活をする
  • 早寝早起きをする
  • ファッションセンスを磨く
  • 感謝の気持ちを表現する
  • 趣味を持つ
  • 時間管理をマスターする
  • ストレスマネジメントを学ぶ



次に、その中から実際に行うべき行動を選びます。

行うべき行動を選ぶときの基準は3つです。

  1. 「目的」の実現に効果的か
  2. 自分が望んでいる行動か
  3. 実行可能な行動か

この3つの基準でどの行動を選択すべきかを決めます。

ステップ3:効果的な「きっかけ」を作る

ステップ2で選んだ行動の一つが「運動する」だったとします。

「運動する」がどういうことか分からない人はいませんが、実際にやるとなると「何から始めれば良いかわからない」となる場合があります。

フォッグ行動モデルに基づくと、行動を起こすためには「きっかけ」が必ず必要な要素でした。

つまり、「運動する」という行動を起こすための初めの一歩は効果的な「きっかけ」を作ることが重要になります。

効果的な「きっかけ」を作るポイントは3つです。

  1. すでにやっている「習慣」に結びつける
  2. 親和性の高い「習慣」と結びつける
  3. 行動」することを忘れてても継続できる仕組みを作る

具体例

  • 勤務中の移動は階段を使う(すでにやっている「習慣」に結びつける
  • 帰り道の途中にあるジムに30分だけ寄る(親和性の高い「習慣」と結びつける
  • 毎週水曜日18時になると「ジムに行く」と通知が来るようスマホに設定する(「行動」することを忘れてても継続できる仕組みを作る

このように、効果的なきっかけを作ることで行動を起こすことに繋げていきます。

ステップ4:小さく始める

ステップ4では次は「行動する」ためにどうすれば良いのかを考えます。

フォッグ行動モデルに基づくと、きっかけが与えられた時に「行動する/行動しない」というのは「モチベーション」と「能力」で決まるとしています。

あらめて「モチベーション」と「能力」の特徴を振り返ります。

  1. モチベーション(Motivation):その日の気分や状況によって変動する
  2. 能力(Ability):日よって高くなったり低くなったりするような「波」はない

上記より、きっかけが与えられた時に「行動する」ための確実な方法とは以下の結論になります。

  • モチベーションが低下しても行動するような能力が高いことをする(小さく始める)

具体例

  • 出勤する時は階段を使う
  • 1kgのダンベルで筋トレする
  • 歯磨き中にスクワットする

もし小さく始めたにも関わらず、行動が続かないようであれば、その行動をする能力が低い可能性があります。

その時は行動をさらに小さくするようにしましょう。

ステップ5:行動したら褒める

人には「ホメオスタシス」と呼ばれる機能があります。

ホメオスタシスとは簡単に言うと、変化せずに常に一定でいようとする機能です。

氷点下でも体温がほぼ一定であることと同じように、新しい行動をするとホメオスタシスがブレーキをかけてきます。

ブレーキを緩める効果的な方法は、その行動を取ったときに心地よい気分にさせることです。

スマートフォンも、街中のパチンコ店も、砂糖たっぷりのフラペチーノを売っているスターバックスも、心地よい気分にさせてまた使ってもらうように脳をハックしています。

心地よい気分には、新しい行動を脳に定着させる働きがあります。

新しい行動を定着させる時も同じです。その行動したら心地よい気分になるように脳をハックすれば良いのです。

脳をハックして新しい行動を定着させる最も簡単な方法は、褒めることです。

褒める時のポイントは3つあります。

  1. 行動を取った「直後に」褒める
  2. 褒めるときに感情を「強く」感じる
  3. 自然体で自分らしく褒める

具体例

  • 「よし!」と言う
  • 「よく頑張った」と心の中で唱える
  • ガッツポーズをとる
  • 笑顔になる
  • 拍手する

この3つを意識することで、行動とポジティブな感情が結びつきます。

ステップ6:継続する

行動することが決まり、また行動するように褒めることができたら、あとはそれを継続するだけです。

継続するといってもただ反復するだけでは、モチベーションが低いときに挫折する可能性があります。

継続する可能性を高めるためにできることは3つです。

  1. 障害となる要因を排除する
  2. 取り掛かるまでの時間を最小にする
  3. 不要な習慣をやめて時間を作る

行動し始めたら上記3点について考えるようにしましょう。思考を続けていると「ここを改善した方が継続できそう」と改善策を思いつきます。

具体例

  • 仕事が終わるのが遅くてもいける24時間ジムに行く(障害となる要因を排除する
  • 運動に必要なもの一式を玄関に置いておく(取り掛かるまでの時間を最小にする
  • 朝服を選ぶのをやめる、ベッドの上で長時間スマホをいじらないように玄関で充電しておく(不要な習慣をやめて時間を作る

行動を繰り返しながら行動をしやすい環境を作りましょう。

ステップ7:「行動」を大きくする

ステップ6で同じ行動を継続して行うと、徐々に習慣となり、行動することが楽になっていきます。

これは反復することによりその行動をする「能力」が高くなっているためです。

反復して能力が高くなったら、今度は「行動を大きく」します。

行動を大きくする方法は2つあります。

  1. その行動自体を大きくする
  2. 行動の幅を広げる

1つ目のその行動自体を大きくするというのは、「1」の行動量を「2」に増やすことを指します。

毎日筋トレしているとして、最初は3kgのダンベルを10回上げることが限界だったはずが、反復することで筋力が上がり10回上げるのがキツくならなくなってきます。そうなったら次は15回上げることに挑戦するか、5kgのダンベルに重量を変えてみる、といった行動を少しずつ大きくします。

2つ目の行動の幅を広げるというのは、本来の目的に立ち返って新しい行動をするということです。

ステップ2で「魅力的な人になって恋人と幸せな時間を過ごす」という目的を実現するために必要な行動を洗い出ししました。その中で新たに一つ行動することを選んで取り入れるのです。

ポイントは「少しずつ」行動を大きくすることです。

行動を大きくするということは、一時的に能力は低くなります。

急に大きな行動に変えようすると、「自分には才能がない」「やっぱり頑張っても無駄だった」と挫折感を味わって行動しなくなる可能性があります。

したがって、行動しないという可能性を低く保ちつつ、少しずつ行動を大きくすることが重要です。

フォッグ行動モデルのグラフ的にはきっかけが左右に移動しているだけに見えます。でも、いざ自分の行動を振り返って考えてみると、初めたての頃には絶対できなかったようなことをしているはずです。

すぐに結果が出ることは稀です。辛抱強く信念を持って行動し続けることで、いつの間にかに目的を達成している状態になっているはずです。

ぜひ今日からフォッグ行動モデルを活用して行動する人になりましょう。

  1. BJ・フォッグ(2021).『習慣超大全——スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法』 ダイヤモンド社 ↩︎