多くの人は「お金持ちになれば幸せになれる」と思い、日々大変な仕事をこなしてお金を稼いでいると思います。
しかし、金銭的に豊かであることが幸福度に与える影響は3%にも満たないということが1996年の研究でわかっています。1
ではお金で幸せを買うことができないかというと、そういうわけではありません。
今回は幸福になれるお金の使い方について、いくつかの研究をもとに5つ紹介していきます。
経験に使う
1960年代の高度経済成長が象徴するように、戦後は物質的な豊かさが幸福につながると信じられてきました。
現代はどうでしょうか。街中にはコンビニエンスストアが年中営業していて好きな時に食べ物が手に入ります。AmazonやUber Eatsでもはや家から出ることなく、欲しいものはいつでも手に入る時代です。
環境への配慮やシンプルライフが流行となったことで、モノを持つことに対する関心が薄れています。
実際にモノにお金を使ったとしても幸福感を感じるのは一瞬で、すぐに元の幸福度に戻ることがわかっています。(これを「ヘドニック・トレッドミル現象」と言います。)
では何に使えば良いかというと、「経験」に使うことが幸福度を上げることにつながると言われています。
2020年にテキサス大学で行われた研究によると、モノ(衣服、宝飾品、家具、ガジェットなど)に使うよりも、経験(旅行、娯楽、野外活動、外食など)に使う方が、幸福度が高くなることがわかっています。3
経験にお金を使う場合は、「お金を使う前」と「お金を使った後」も幸福度が上昇するようです。
このことから、モノにお金を使うよりも経験にお金を使うことで長期的な幸福度上昇につながることがわかります。
時間を買う
サラリーマンとして働いている人の中には「家族を養っていくため」「出世してより高い給料を得るため」といった目的で、朝から晩までデスクの前に座ったまま、長時間労働をしている人が少なくありません。
私たちは「もっと多くのお金があれば幸せになれる」と思って人生の大半の時間を労働に投下しています。
しかし、これは間違いであると指摘する論文があります。
2019年にロンドン大学で行われた研究では、79カ国の社会人を対象として自由な時間がある人とより多くのお金を稼いでいる人のどちらが幸福度に影響を与えるかを調査しています。
結果としては、自由な時間が多い人の方がずっと働いてお金を稼ぐ人よりも実際には幸せで、健康的で、生産性が高いであることがわかっています。4
つまり、幸福度を上げるためにはお金よりも自由な時間が重要であるということです。
自分の趣味に当てたり、家族と過ごしたり、新しい経験をしたり、このような幸福感を得られる経験をするためには他人に縛られない自由な時間が必要です。
「今は一生懸命働いているのだから、後で余裕ができてもっと幸せになる時間があるはずだ」と正当化したくなりますが、そのような人はいくらお金を稼いでも同じことを考えるでしょう。
幸福度を上げるためにすべきことは「お金を作るために時間を使う」のではなく「時間を作るためにお金を使う」ことです。
具体的には以下のようなことにお金を使うことで時間を作ることができます。
- 家事時間を減らす:時短家電を活用する、家事代行を利用する等
- 準備時間を減らす:脱毛をする、ICLをする等
- 移動時間を減らす:職場の近くに住む等
その人が置かれている状況によって、どれくらいの時間が作り出せるかは変わってきます。
まずは生活の中で「お金を使うことで自分がやらなくて済むようになることはないか?」を探してみて、余裕資金の中で積極的に投資することが幸福度を上げることにつながります。
将来の楽しみに使う
将来の楽しみとは以下のような「時間が経過した後に恩恵を受けられるもの」です。
- 旅行の予約をする
- コンサートの予約をする
- マイホーム購入のための積立をする
特に将来の楽しみが「経験」だとすると、それをするまでの間も幸福度が上昇することは先ほどテキサス大学の研究結果から説明しました。
経験でなかったとしても、将来への期待を抱くものを買うことで幸福度は上がります。
今を楽しむことが最も重要ですが、将来の楽しみを何か作っておくことも幸福度高く生きるための手段になります。
他人のためにお金を使う
幸福度を高める方法として「他人への投資」に焦点を当てた研究があります。
スタンフォード大学経営大学院で行われた研究によると、他人のためにお金を使うことは自分のためにお金を使うよりも幸福を高める可能性があると示されています。5
ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットのように莫大な富を慈善活動に使う特別な人だけでなく、一般人が少額でも他人に費やすことで幸福を感じることはできます。
スタンフォード大学経営大学院の別の記事では、わずか5ドルの支出でも他人に使うことで、その日の幸福度を大きく高めることができることが示されています。6
親に食事を奢ったり、慈善団体に寄付したり、大切な人にプレゼントを買ったり、他人のためにお金を使う機会は多くあります。
まずは5ドルほどの少額から他人のためにお金を使ってみましょう。
自分の性格に沿った使い方をする
上記4つのお金の使い方は性格に依存せず、大半の人が当てはまるお金の使い方です。
注意したいのは、統計的に幸福度が高くなる傾向にあるというだけで、誰もが当てはまるというわけではないということです。
なぜなら、人それぞれ価値観が違い、重要だと思っていることが一緒ではないからです。
お金を作って自由な時間が増えても退屈になって逆に苦痛に感じたり、他人のためにお金を使うのはもったいないと思う人もいます。
したがって、最終的にはその人の性格に沿った使い方をすることが生活満足度を上げてポジティブな感情をもたらすことにつながります。
2016年に76,000件以上の銀行取引記録を用いた実地調査において、自分の性格に合った商品を購入する人ほど、生活満足度が高いことがわかっています。7
またこの影響は個人の総収入や総支出の影響よりも強いことが報告されています。
つまり「どれくらいお金を使っているか」よりも「何に使っているか」の方が重要である、ということです。
参考文献
- David Lykken and Auke Tellegen. "Happiness Is a Stochastic Phenomenon". Psychological Science Vol. 7, No. 3 (May, 1996), pp. 186-189 (4 pages) Published By: Sage Publications, Inc.
https://www.jstor.org/stable/40062939 ↩︎ - 環境省『環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書』
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/ ↩︎ - Amit Kumar, Matthew A. Killingsworth, Thomas Gilovich. "Spending on doing promotes more moment-to-moment happiness than spending on having". Journal of Experimental Social Psychology, 2020; 88: 103971 DOI: 10.1016/j.jesp.2020.103971
https://www.sciencedaily.com/releases/2020/03/200309130020.htm ↩︎ - Lucía Macchia, Ashley V. Whillans. "Leisure beliefs and the subjective well-being of nations". Pages 198-206 | Received 03 Jul 2019, Accepted 31 Oct 2019, Published online: 14 Nov 2019
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/17439760.2019.1689413 ↩︎ - Stanford Graduate School of Business(2013).『Research: Can Money Buy Happiness?』 ↩︎
- Stanford Graduate School of Business(2010).『Spending on Happiness』 ↩︎
- Sandra C Matz, Joe J Gladstone, David Stillwell. "Money Buys Happiness When Spending Fits Our Personality". Psychol Sci
. 2016 May;27(5):715-25. doi: 10.1177/0956797616635200. Epub 2016 Apr 7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27056977/ ↩︎