デスクワークやテレビの普及にともなって、現代人は「座りっぱなし」になっている時間が長くなっています。

厚生労働省の調査によると、日本人の成人が1日座っている時間は約7時間と、調査対象の20ヶ国と比較しても座っている時間が長いことがわかっています。

※厚生労働省HPより引用1

「座りっぱなしの何が問題なの?」と思う方もいるかと思います。

今回は座りっぱなしの健康リスクとその対策について、科学的根拠をもとに紹介していきます。

座りっぱなし健康リスク

①がん・心疾患のリスクが上がる

2014年にコーネル大学で行われた研究では、50~79歳の女性92,234人を対象として、座っている時間とがん死亡率の関係を調査しています。2

結果としては1日の座っている時間が4時間未満のグループに対して8〜11時間のグループのがん死亡率は約1.2倍になっていることがわかっています。

他にも50-71歳の成人488,720人を対象とした研究では、1日のテレビ視聴時間が3時間未満のグループに対して9時間以上のグループは結腸がんの疾患リスクが1.61倍高いことがわかっています。3

これら実証研究をまとめたメタ分析では、長時間の座位行動が子宮内膜がん、大腸がん、乳がん、肺がんの罹患リスクは上がる、と結論づけています。4

がんだけでなく、心疾患のリスクも上がることを示唆している研究もあります。

つまり座っている時間が長くなるほど、がんによる死亡率が高くなるということが言えます。

②肥満・糖尿病のリスクが上がる

1992年から1998年にかけて行われたアメリカ11の州の女性を対象とした研究では、テレビ視聴時間が肥満および2型糖尿病の発症に関係しているのかを調べています。

結果としては、1日のテレビ視聴時間が2時間増加するごとに、肥満が23%増加し、糖尿病リスクが14%増加したと報告しています。5

これはテレビの視聴に限らず、仕事中のデスクワークでも同様であると警告しています。1日で仕事中に座っている時間が2時間増加するごとに、肥満が5%増加し、糖尿病が7%増加することも同研究結果からわかっています。

このことから、「テレビ視聴」「デスクワーク」「勉強」などの座って行う活動は、肥満と2型糖尿病のリスクの有意な上昇と関連していることがわかります。

③老化が加速する

特に会社を定年退職すると「自分の活動するコミュニティをを見つけて活発的に動く人」と「コミュニティには属さずに家でゆっくり過ごす人」で分かれます。

高齢者の座りすぎに関する研究も行われてきており、座りすぎによる死亡リスクが高くなることもわかっています。その要因の一つが「身体機能の低下」です。

サルコペニア(筋肉量が減少して、筋力の低下、身体機能の低下をきたすこと)や運動器症候群(運動器の機能が衰えて、要介護や寝たきりになってしまったり、そのリスクの高い状態)などの症状も座っている時間が大きく影響しています。

実際に2015年に行われた研究では、座りっぱなしの時間が長くなるほど10年後の歩行速度の低下しやすくなるということを報告しています。6

座りっぱなしの時間が長くなるほど長期的には身体機能の低下、つまり老化が加速するということがわかります。

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座りっぱなしが体に良くないメカニズム7

実は座りっぱなしのが体に良くない根本的な理由というのは十分に解明されていません。

ただ、近年の座位行動研究の分野で注目されている心血管疾患と代謝疾患の発症と関連する機能の低下が生じるメカニズムから説明ができるのではないかとされています。

そのメカニズムが下図です。

筋活動が低下する

一般的に、立っているときは姿勢を維持するために、腹筋やふくらはぎやの筋肉が持続的に使われ、歩いているときは太ももの筋肉が活発的に使われるようになります。

この身体活動に伴って生じる筋肉の筋収縮によって、エネルギーであるグルコースを運ぶグルコース輸送体を細胞膜に移動させたり、血液中のグルコースを細胞内へ取り込みを促したり、してくれます。

逆に座っているときというのは、腹筋やふくらはぎの筋肉を使わず、筋収縮がほとんど行われません。

筋収縮が行われず筋活動は低下すると、先ほど述べたグルコース輸送体の働きが低下することで血液中のグルコース濃度や中性脂肪濃度が上昇すると考えられています。

血管機能を低下させる

長時間座っていると、筋収縮の低下や重力の影響によって下半身に赤血球が溜まりやすくなります。

赤血球が下半身に溜まりやすくなると、血液の粘り気と炎症有無や程度を示す炎症マーカが高まることが指摘されています。

また、長時間座っていると血圧が上昇し血管機能を低下させる可能性があるという報告もされています。

座りっぱなしで健康を損なわないようにするためには

座りっぱなしで健康を損なわないようにするためには、先ほどの図の根本を改善するほど効果的だと考えられます。

具体的には以下の3つです。

  • 座りっぱなし
  • 姿勢(重力)
  • 消費エネルギー低下

これらに対する対処法としては3つです。

①座りっぱなしをやめる

最も効果的なのは、そもそも座りっぱなしをやめることです。

座りっぱなしをやめる具体的な方法としては以下のようなものが挙げられます。

座りっぱなしをやめる具体的な方法

  1. 30分に1回立って動く
    座っている時と比較すると動いているときの運動量は倍あります。ただ立つだけではなく、少し動くことを加えると血糖値に関する改善が見られたと報告がされています。8
  2. スタンディングデスクを利用する
    シットスタンド・ワークステーションを導入した会社では、社員の業務中の座位時間が1日66分減少し、それによって腰や首の痛みが54%改善して、疲労感が緩和したことが報告されています。9

姿勢を正す

椅子に座る際の正しい姿勢は、座りっぱなしによる体への負担を軽減し、特に腰痛の予防に重要な役割を果たします。

また、正しい姿勢は血液循環と酸素供給の向上につながり、集中力を向上させます。

具体的に姿勢を正す上でのポイントは9つです。

姿勢を正す上でのポイント

  1. 椅子に深く腰掛ける
  2. 座骨を座面に当てて背筋を伸ばす
  3. もたれかからない
  4. 膝下がまっすぐで、足の裏が地面についている
  5. 座骨に均等に体重が掛ける
  6. 座骨と足の4点で身体を支える
  7. 椅子の高さは膝位置よりもやや低い位置に調節する
  8. 肩を丸めない
  9. 骨盤を左右前後に傾けない

気にするポイントは多いですが、一つでも多く取り入れて座っているときの体への負荷を減らすことが重要になってきます。

また、体への負荷が少ないデスクチェアやゲーミングチェアを活用することで体への負荷を軽減することも良いでしょう。

運動する

総計1,005,791人の被験者を元に座っている時間と死亡リスクについて分析を行ったしたメタ分析があります。

この分析では座っている時間に関わらず1週間の運動量が増加するほど死亡リスクが有意に低下したことがわかっています。10

『Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women』より引用

図で示されている「MET」というのは、座って安静にしている状態を1METとした場合に、各身体活動が何倍のエネルギー消費量であるかを数値化したものです。

運動がどれくらいの「MET」に相当するのかは国立健康・栄養研究所が細かく掲載しています。11

1日の運動量目安については厚生労働省の『アクティブガイド』で述べられています。

この『アクティブガイド』によると18歳から64歳の人には1日60分以上、65歳以上の人には1日40分以上体を動かすことを推奨しています。12

まずはこの時間を目安に運動をするようにしてみましょう。

  1. 厚生労働省. 『座位行動』
    https://www.mhlw.go.jp/content/000656521.pdf ↩︎
  2. Rebecca Seguin, David M Buchner, Jingmin Liu, Matthew Allison, Todd Manini, Ching-Yun Wang, Joann E Manson, Catherine R Messina, Mahesh J Patel, Larry Moreland, Marcia L Stefanick, Andrea Z Lacroix. "Sedentary behavior and mortality in older women: the Women's Health Initiative". Am J Prev Med. 2014 Feb;46(2):122-35. doi: 10.1016/j.amepre.2013.10.021.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24439345/#full-view-affiliation-1 ↩︎
  3. Regan A Howard, D Michal Freedman, Yikyung Park, Albert Hollenbeck, Arthur Schatzkin, Michael F Leitzmann. "Physical activity, sedentary behavior, and the risk of colon and rectal cancer in the NIH-AARP Diet and Health Study". Cancer Causes Control. 2008 Nov;19(9):939-53. doi: 10.1007/s10552-008-9159-0. Epub 2008 Apr 25.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18437512/ ↩︎
  4. Dong Shen, Weidong Mao, Tao Liu, Qingfeng Lin, Xiangdong Lu, Qiong Wang, Feng Lin, Ulf Ekelund , Katrien Wijndaele. "Sedentary behavior and incident cancer: a meta-analysis of prospective studies" PLoS One . 2014 Aug 25;9(8):e105709. doi: 10.1371/journal.pone.0105709. eCollection 2014.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25153314/ ↩︎
  5. Frank B Hu, Tricia Y Li, Graham A Colditz, Walter C Willett, JoAnn E Manson. "Television watching and other sedentary behaviors in relation to risk of obesity and type 2 diabetes mellitus in women". JAMA. 2003 Apr 9;289(14):1785-91. doi: 10.1001/jama.289.14.1785.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12684356/ ↩︎
  6. Victoria L Keevil, Katrien Wijndaele, Robert Luben, Avan A Sayer, Nicholas J Wareham, Kay-Tee Khaw. "Television viewing, walking speed, and grip strength in a prospective cohort study". Med Sci Sports Exerc. 2015 Apr;47(4):735-42. doi: 10.1249/MSS.0000000000000453.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25785826/ ↩︎
  7. 岡浩一朗(2017). 『「座りすぎ」が寿命を縮める』. 大修館書店 ↩︎
  8. Daniel P Bailey, Christopher D Locke. "Breaking up prolonged sitting with light-intensity walking improves postprandial glycemia, but breaking up sitting with standing does not". J Sci Med Sport. 2015 May;18(3):294-8. doi: 10.1016/j.jsams.2014.03.008. Epub 2014 Mar 20.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24704421/ ↩︎
  9. Nicolaas P Pronk, Abigail S Katz, Marcia Lowry, Jane Rodmyre Payfer. "Reducing occupational sitting time and improving worker health: the Take-a-Stand Project, 2011". Prev Chronic Dis. 2012:9:E154. doi: 10.5888/pcd9.110323.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23057991/ ↩︎
  10. Ulf Ekelund, Jostein Steene-Johannessen, Wendy J Brown, Morten Wang Fagerland, Neville Owen, Kenneth E Powell, Adrian Bauman, I-Min Lee; Lancet Physical Activity Series 2 Executive Committe; Lancet Sedentary Behaviour Working Group. "Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women". Lancet. 2016 Sep 24;388(10051):1302-10. doi: 10.1016/S0140-6736(16)30370-1. Epub 2016 Jul 28.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27475271/ ↩︎
  11. 国立健康・栄養研究所『改訂版「身体活動のメッツ(METs)表」』
    https://www.nibiohn.go.jp/files/2011mets.pdf  ↩︎
  12. 厚生労働省(2013)『アクティブガイド -健康づくりのための身体活動指針-』
    https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpr1.pdf  ↩︎